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オピニオンリーダーが語る
厨房談義 第24回

料理人と厨房設計者の絆が生んだ“こだわりの厨房”

作業効率を高め、新しい料理を創り出す厨房には、
料理人と厨房設計者の信頼関係が不可欠です。

株式会社なだ万 商品開発室 室長 加藤道久 氏
NRTシステム株式会社 代表取締役 畑 治 氏

PROFILE

●加藤道久氏/なだ万に入社以来、東京なだ万、シンガポールなだ万、なだ万厨房日本橋三越店、渋谷なだ万茶寮調理長、なだ万アプローズ(当時)調理長、ハワイ店(当時)調理長、小田原店(当時)調理長を経て、2011年なだ万厨房 商品開発室長に就任。

●畑治氏/フードビジネスコンサルタントとして、様々な飲食施設の厨房設計、商圏調査、市場分析、運営指導、メニュー提案を行っている。近年は、個人経営者の店舗の総合プロデュースや会計支援なども行っている。

“老舗はいつも新しい”という言葉どおり、日本料理の正道を守りつつ、さらに時代にマッチした味やスタイルを追求する「なだ万」。その「なだ万アプローズ(新宿高野店:当時)」と「商品開発室テストキッチン」という2つの厨房は、料理人と厨房コンサルタントの厚い信頼から誕生した先進的な事例として、今でも注目を集めています。

なだ万の多くの店舗で調理長を務め、現在は商品開発室長としてさらに新しい食の提案を続ける加藤氏と、厨房計画を中心にしたフードビジネスに特化した数多くのコンサルティング実績をもつ畑氏。この2人が“こだわりの厨房”をめぐって語り合いました。

Subject 1 和食店舗として、多くの新しい試みに
挑戦した「なだ万アプローズ(新宿高野店)」

──お二人が調理長と厨房設計者として一緒に仕事をされたのは、2002年に開店した「なだ万アプローズ(新宿高野店:当時)」が2例目だったそうですね。

はい、初めてご一緒したのは、ホテルニューオータニの「紀尾井なだ万」の改修でした。その時の経験も踏まえて「なだ万アプローズ」では、加藤さんから非常に斬新なアイデアをいただき、厨房設計に活かしました。

加藤

2002年に開店した「なだ万アプローズ」は、フルーツパーラーで有名な新宿高野本店の6階にありました。現在は閉店しています。お店のコンセプトは、「世代を超えた女性客が会食できるレストラン」。例えば、お母様が和食のお弁当を、お嬢様はイタリアンのパスタをそれぞれ注文され、一緒に会食していただくというイメージです。そのために、入口や内装は和食としては極めてモダンなデザインを採用し、器も和食にはないものを取り入れました。

まさに「和と洋のコラボレーション」でしたね。和食店でありながら、日本茶はいっさい出さずに、お水もワイングラスを使い、店内はピンクとグリーンを基調にした内装でした。和食で初めてオープンキッチンを採用したことも画期的でした。

加藤

お客様が女性中心ということで、デザートも5種類から3つを選べる盛り合わせにしました。これを毎日約200食お出しするために、なだ万として初めて2名のパティシエを採用しましたのも懐かしい思い出です。

──厨房全体のゾーニングの特長について、教えてください。

デザートを重視するために、パティスリーを独立させて、スチコン、スピードオーブン、アイスクリームマシンを備えた本格的なものにしました。またホットキッチンとコールドキッチンの両方を外から見えるオープンキッチンにしました。仕込みも肉と魚を分離させ、働きやすくしています。カウンター席ではワインをお出しするので、ワインセラーも設置しました。

加藤

洗浄室については、食器用とグラス用を分離させました。女性がメインのお客様ですので、口紅や臭いが残らないよう細心の注意を払いました。

なだ万アプローズ(新宿高野店)の厨房ゾーニング

──設置された厨房機器にも、新しい多くの試みがあったと聞いています。

加藤

そうですね。この店のもう一つのコンセプトとして「日本で一番ご飯が美味しいレストラン」を掲げました。これを実現するために、厨房の中に業務用の精米機を設置し、玄米を仕入れてオーダーごとに精米し、それを雲井窯の土鍋で炊き上げました。ご飯の味は日本人の味覚に深くしみこんでいますから、徹底的にこだわったのです。

厨房設計の視点では、精米機や土鍋をお客様から見えるようにディスプレイし、土鍋専用のガスコンロを特注して2種類の土鍋を8個置けるようにしました。これは当時、雑誌にも紹介されるなど話題になりましたね。

加藤

スチームコンベクションオーブンについても、深い思い入れがありました。なだ万では早くからスチコンを導入していましたが、10年後を見据えた厨房にしたいという思いから、当時の最新鋭のスチコンを選定して2段積みにしました。ブラストチラーとスチコンをセットで導入したのも初めてで、以来これがなだ万の標準になりました。

スチコンのことは、よく覚えています。加藤さんからメーカーと品番まで指定され、しかもショールームの予約までしていただいて見に行きました。料理人は先を読んでここまでこだわるのかと、感服しました。

加藤

あと、炭火焼グリラーの選定も、苦心しましたね。スピードアップのために両面焼きにこだわり、炭火焼きのテイストが出せる機器を求めて、2人でショールーム巡りをしました。当時田町にあった東京ガスさんのショールームをお借りして、食材を持ち込んで何回も挑戦したのもいい思い出です。

なだ万アプローズ(新宿高野店)の厨房機器の特長

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