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厨房談義[第7回] 料理人のための最適厨房環境を実現 「心豊かな料理人から美味しい料理は生まれる」

レストランひらまつ 総料理長
株式会社ひらまつ 代表取締役社長 CEO
平松宏之氏

PROFILE
1952年横浜生まれ。フランス料理のシェフを志し1978年に渡仏。ナントやパリのレストランで修行を経た後、1981年に帰国、翌年、西麻布に「ひらまつ亭」を出店する。24席の店内で一日70万円を売り上げる伝説の繁盛店となる。1987年5月、広尾に「レストランひらまつ」を開店。1994年、株式会社ひらまつを設立し、代表取締役社長に就任。
2003年3月、高級レストラン事業会社として初めてジャスダック市場に株式上場し、2004年4月、東京証券取引所市場第2部に株式上場を果たす。
2001年10月フランス・パリに「レストランひらまつ サンルイアンリル」を出店し、4ヶ月の早さでミシュランの一つ星を獲得(ミシュラン史上最短時間で獲得)。フランスと日本における文化の架け橋として、三つ星の真意を紹介するとともに、日本におけるフランス料理の発展に努めている。

西麻布にあった「ひらまつ亭」が1988年に現在の広尾に移転して「レストランひらまつ」となり、以来、東京を中心に札幌、名古屋、博多にも店舗展開。2001年にはフランス料理の本場・パリに進出し、伝統あるパリの名店の中にあって、開店4ヶ月でミシュランガイドの1つ星を獲得するという快挙を成し遂げました。国内、そしてパリのお店の総料理長であり、「株式会社 ひらまつ」を統轄する上場企業のオーナーでもある平松宏之氏に、厨房作りのコンセプトやパリの厨房について伺いました。

Subject1 厨房のコンセプトは「料理人のスピリットの昂揚」

──この広尾のお店の厨房は建物の最上階にあるそうですが?

平松 そうです。ぼくが作る厨房はいつも一番環境がいい場所に作ります。みなさんに贅沢だと言われますが、広さも席数のキャパシティの1.5倍の厨房にします。例えばこのお店は、40名の席数ですが、厨房は65名~70名に十分対応できるスペースです。
普通、厨房は地下で窓がない所が多いでしょう。ここを作る時も、みなさんは地下に厨房を作るだろうと思ったようです。ところがぼくは最上階の4階に作りました。

厨房
レストランの最上階、4階にあるベストポジションの厨房。南に面した広い窓から明るい光が舞い込む。窓側には洗い場があり、樹齢数百年の楠の大樹を眺めながら食器を洗うことができる。厨房内は一目で見渡せるように設計されており、各々の作業手順が把握できるようになっている。
また調理機器などの角はアールに成型し、吊り戸などの底には特注のカバーをつけて油やほこりがたまらないようにして掃除がしやすく清潔優先に設計されている。

──料理人の立場にたった厨房作りをなさっているわけですね。

平松 料理人は朝から晩まで厨房にいて、何時間もずっと立ちっぱなしです。それに加えて日が暮れるのもわからない、今日は雨か晴れかもわからない、というのでは気持ちが暗くなってしまいがちですよね。そこでどうやってみんなの気持ちを明るくしていくか、に配慮しています。空が見えて自然が見える。春になったな、緑がだいぶ増えてきた、今日は風が強いなあ、と感じられる環境は、料理人の心を豊かにしてくれます。肉体と精神をいかに健康に保つか、というのは、いい料理を作るためにはとっても大事なことです。料理も生き物、料理人も生き物、そこには精神があり、その精神によって実は、美味しい料理になったり、まずい料理になったりすると思っています。またお客様には1階から階段をゆっくりあがって壁にかかっている絵やお花を楽しんでいただき、非日常の世界に入ってもらうように演出をしています。ですからお客様は、従業員も階段を使うと思っていらっしゃって、「従業員の方、大変ですね」と言われますが、実は、裏に従業員専用のエレベーターあるんですよ。我々は1階から4階まで1日に何往復もしなくてはいけません。ですから従業員にこそエレベーターが必要なんです。

Subject2 広尾のお店の厨房作りのポイントは?

──ここの厨房をお作りになる際に工夫なさった点を教えていただけますか。

天井換気システム
強力なフード換気で、厨房内の温度を一定に保ち空気をクリアにしている。料理人が働きやすい厨房環境になっている。

平松 料理人が健康でなければ美味しい料理はできない、というのがぼくのモットーですから、働いている人間が快適でいられるように、空調については一生懸命考えました。客席のフロアの倍くらいの能力を備えた空調機が完備してあります。換気が悪いと室温が80度位に上がって、メガネのフレームが溶けてカチン!とレンズが落ちることがあります。昔、そんな厨房で働いていたこともありますよ。また、厨房では湯気、油が飛びますが、それを換気によって全体に散らばらないようにする。いかに空気をクリアにするかということも厨房作りのポイントです。ですから厨房環境の大前提は換気です。
次は水はけ、それから動線ですね。1人で立って作業する場合は、通路の幅は90cm、二人が重なって一緒に仕事をする場合は、1m20cm。歩幅にも厳密にこだわって通路幅を決めました。極力動きを少なくして疲労を軽減するように設定してあります。

──これからの厨房機器はどう変わっていくとお考えでしょうか?

ガス仕様のガス台とピアノ
電気、電磁、炭、ガスを完備。料理によって、それぞれの熱源の特性を生かした使い分けをしている。厨房で目立っているのはガス仕様のガス台とピアノ。営業後1時間かけてきれいに磨き込んでいるという年数を感じさせない調理機器の数々。

平松 ガス、電気、電磁、この3つの熱源がバランスよく取り入れていかれると思います。電気だけではすごく非効率ですし、電磁では出来ないことがたくさんあります。ぼくたちのDNAの中には炎があるわけでしょ、その昔は薪だったり、石炭だったり。炎を使った料理じゃないと感動しないし、自分の居場所ではない、という気がします。オール電化は辛いですね。ぼくのように50才を超えた料理人にとって炎はとても大事です。炎の美しさ、炎と遊んでいる自分、炎が応えてくれるもの。炎というものは人の心をなごませてくれる効果があります。どんなに電化が進んでも、料理の原点が炎であることを絶対プロの料理人は忘れません。

──いろいろな厨房を体験なさった中で、マイベスト厨房をあげていただけますか。

デシャップ
L型になっている広いデシャップ。客席と同じ照明で盛りつけをする。

平松 今まで厨房設計をたくさんしてきましたが、最近作ったパリのお店と20年前に作ったここのお店。この2つが私にとってのマイベスト厨房です。
ここ広尾のお店が出来た当時は、最上階にあるということや厨房設計の工夫が注目され、画期的な厨房、といろいろな雑誌に紹介され、たくさんの方が見学にみえました。年数が経ちましたが、今でも使いやすいとみんなが言います。

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