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厨房談義[第21回] 学校給食における食中毒の予防策 「食中毒を抑えるためには、発生原因を理解し、ソフト・ハード両面の対策が不可欠です。」

東京医科大学兼任教授(医学博士)
特定非営利活動法人 栄養衛生相談室 理事長
中村明子 氏

PROFILE
共立薬科大学薬学部(現 慶應義塾大学薬学部)卒業。厚生省国立予防衛生研究所(現 国立感染症研究所)にて、感染症とくに食中毒起因菌の研究に従事。文部科学省、東京都で食中毒対策委員を歴任。現在、東京医科大学兼任教授、国立感染症研究所感染症情報センター客員研究員、東京大学医学部客員研究員。専門は腸内細菌の病原性および腸管感染症の疫学の研究。学校給食における食中毒予防のため、数多くの衛生管理の指導を行っている。

学校給食において、食中毒の防止は極めて重要な課題です。的確な対策を講じるためには、食中毒の発生メカニズムを理解し、具体的な対応策を現場に定着させる必要があります。
食中毒を予防するためのドライ厨房やゾーニングのあり方、そして食器の洗浄方法、手洗い、石けんや手袋の使い方、厨房機器の選定方法まで、学校給食の衛生管理を長くリードされてきた中村氏に詳しくうかがいました。

Subject1 食中毒の原因を理解することが有効な対策を講じる第一歩

──そもそも「食中毒」とは、何が原因で起こるのでしょうか。

中村

食中毒にはキノコなどの自然毒による場合もありますが、一般的には「ウイルス」や「細菌」によるものを食中毒として扱っています。原因別の発生時期を見ると、ウイルスは冬に、細菌は夏に、その多くが発生しています。

ウイルスによる食中毒はほとんどがノロウイルスによるもので、これは1999年頃から統計に上がってきました。それまで冬になると嘔吐や下痢をともなう胃腸炎の患者が多発していましたが、原因が分かりませんでした。遺伝子による診断が可能になったことで、ノロウイルスが発見できたのです。今では全体の約3分の1がノロウイルスによる食中毒です。それ以外が細菌による食中毒で、高温多湿である夏が発生のピークとなります。

ここで重要なことは、食中毒が起こるメカニズムをしっかりと理解することです。食中毒の原因となるウイルスや細菌がどんな環境にどういう形で存在しているかを把握すれば、その対策も講じやすい。たとえばノロウイルスは、以前はカキなどの二枚貝に付着していると考えられていましたが、それは1割程度で、今ではほとんどが人間の手を介して食品を汚染することが分かっています。だから手洗いという対策が極めて重要になるのです。

Subject2 特に重要な対策は「ドライ厨房」と「ゾーニング」

──具体的に、食中毒の原因と対策について説明していただけますか。

中村明子 氏

中村

特に重要な項目として、まず「ドライ厨房」と「ゾーニング」を解説しましょう。

まずドライ環境について。細菌が発育する条件は、栄養・温度・水分の3つといわれています。そのどれか一つでも欠けると細菌は発育できません。乾物を冷蔵庫で長期保存できるのは、細菌は付着していても、温度と湿度が低いため増殖できないからです。

だから、それと同じことを厨房環境で実現すればよいのです。まず厨房をドライな状態に保ち、湿度をコントロールすることが大切です。前日にしっかりと掃除した厨房でも、ぬれたままでは1個の大腸菌が一晩で10万個くらいに増えてしまいます。確実な清掃に加えて、夜間の換気を確実に行って乾燥状態にすることがとても大切なのです。また厨房内の温度を25度以下にすることで、細菌の増殖を抑える効果が非常に高くなります。

次にゾーニングについて。自然界でとれる食品は、野菜・魚介・肉をとわず細菌が必ず付着しています。その中に食中毒につながる病原菌が混入していることもある。そこで厨房全体を「汚染区域」と「非汚染区域(清潔エリア)」に分けるゾーニングを確実に行い、汚染度の高い生の食材は汚染区域(検収室や下処理室)で細菌をできるだけ落とし、その上で清潔エリアで調理を行うようにします。

その際の留意点としては、細菌を清潔エリアの調理場に入れないために、動線の流れを必ず一方向にすることです。納入された包装容器は調理場には持ち込まず、下処理室で洗ったあと専用容器に入れ替える。汚染区域から清潔エリアに入る時は、手洗いを行い、履物や衣服を着替える。冷蔵庫もパススルー冷蔵庫を採用すべきです。パススルー冷蔵庫は、両面扉の構造になっているので、食材の流れを一方通行にでき、台車や履き物による汚染を遮断して徹底した衛生管理を実現することができるのです。

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