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Bo! [ボッ]
第1回「厨房で、話そう。」 松嶋啓介 聞き手・大沢晴美
20歳で渡仏。弱冠28歳の時、本場フランスで日本人最年少でミシュランの星を獲得した松嶋啓介シェフ。
① 「地中海らしさ」と「日本人である」ということを、お皿の中に表現していきたい。
② 「シェフ」という「クリエイター」は、エゴイストじゃなければいけない。
「地中海らしさ」と「日本人である」ということを、お皿の中に表現していきたい。  
    調理中の写真  
 
  大沢 松嶋さんは渡仏して、フランス在住10年になりますよね。そのうちオーナーシェフをやっている期間が5年で、その前の5年間が修業期間ですよね。その頃に松嶋さんがいちばん影響を受けた師匠というのはやはりレジス・マルコンさん*でしょうか。
 
*レジス・マルコン 「レストラン レジス・エ・ジャック・マルコン」オーナーシェフ。人口200人の山中の村でミシュラン・3ッ星を獲得。
 
松嶋 師匠というよりも、初めて真剣に働く大人に出逢ったという印象がありますね。ものすごく熱心というか、生きることをかけて仕事をしている感じがあったので、マルコンさんからは生命力の強さというのを感じました。それだけ真剣にやっていたから、やっぱり自分も手を抜けないですよね。仕事を上がる時間がどんなに遅くても、厨房に来るのは僕より早かったり。目が真っ赤になったまま調理場に入って来たり。そういう姿って格好いいし、凄いなと思いましたね。
    調理中の写真  
    ある日、僕がキノコのガルニチュール(つけ合わせ)を準備して、盛りつけをするマルコンさんに渡したら、鼻で香りをかいだだけで塩が足りないと言ってそのまま鍋を返されたことがあったんですよ。その時は、なんで食べてもいないのに塩が足りないと言えるんだろうと不思議に思ったんですけど、実際食べてみたら塩がちょっと足りなかった。後日、その理由を聞いたら「塩の量が足りないまま火を入れても、素材の香りは引き出せない。それもトレーニングしたらわかるよ」とマルコンさんに言われたんです。  
 
     
 
  大沢 ただ火を入れればいいというものじゃないと、マルコンさんから学んだわけですね。そんな修業期間を経て、ご自身の店を構えてから松嶋さん自身は自分の料理のキャラクターみたいなものを、どういうふうに築き上げてきたんですか。  
松嶋 10年間フランスにいる間に、料理に対する考え方も変わってきましたが、一番変わったのは現地に根ざして体感しながら得たこと。つまり、フランスの地方性や風土、伝統や文化、そこに育つ食材に対する自分の意識です。最初にニースにたどり着いたときに較べたら、地中海地方に対する意識が全然違うんですよ。5年間の修業時代は、短いスパンでいろんな土地を転々としていました。
    対談中の松嶋さんと大沢さん  
    今はニースに店を構えてからずっと同じところにいて、その土地の勉強をしようという意識がありますね。その土地を自分のものにしよう、自分の出身地をここにしよう、地中海人になりたいって思ってますよ。  
 
     
 
  大沢 ということは、その土地に対する考え方や意識というのが、今の自分の料理に活かされてきているわけですね。  
松嶋 はい。「地中海らしさ」と「日本人である」ということをお皿の中に表現しようと思って料理に取り組んでいます。フランス料理が今までつくってきた伝統の技術、たとえば炎の技にしても、焼く、煮る、蒸す、ポワレ、バプールとかいろいろあると思うんですけど、そういう伝統は技術としてしっかりお皿の中に吹き込みながら、素材などは地方性を活かしていきたい。それにプラスアルファで「日本人である」というところを何か足していけたらいいなと思いながら、いつもお皿をつくっています。
    料理の写真  
     
 
  大沢 そういう日本的なものを表現した松嶋さんならではの料理が、リニューアルオープンしたニースの「KEISUKE MATSUSHIMA」でも愉しんでいただけるわけですね。とても立派なお店になったけど、厨房をつくるに当たって、何か考えたことはありましたか。
 
松嶋 そうですね。調理場のレイアウトをすること自体が初めてだったので、いきなり自分でプランを立てるのは、正直言って難しかったですね。現地のデザイナーさんに自分の希望を伝えると、実際は予算オーバーしてしまうし。経験が無い分、あまり自分でイニシアティブをとって話をすることができなかったですね。できあがってみると、もうちょっとこうできるな、もうちょっとスペースの使い方を工夫したほうがいいな、という贅沢な希望が出てきました。だから今は、次にお店を出して調理場のプランニングをするときは、もっと凄い調理場をつくるぞ!という気持ちでいっぱいですね。
 
        
 
  大沢 松嶋さんが厨房をプランニングする時に、いちばんこだわったのはどこだったんでしょうか。  
松嶋 それは洗い場ですね。洗い場がパンクして、調理場に迷惑がかかるお店っていっぱいあるんですよね。調理場の方が完璧でも、洗い物が溜まってしまうと料理を出しづらくなるんです。だから僕は、瞬間的にドバーッと料理を出す時に備えて、特に洗い場には気を使いました。やはり厨房って、料理に反映されるんですよ。
大沢 そうですね。やはり自分の厨房が変わると、自分の料理の表現も変わってくるだろうなと、私も思います。
 
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