TOKYO GAS エネルギー・フロンティア
  厨房で働くあなたの心に着火 プロの厨房を応援する情報誌
Bo! [ボッ]
第4回「厨房で、話そう。」 木下威征 聞き手・桑名朝子
① 客席の中に厨房があるんじゃない。厨房の中に客席があるんです。
② 炎と友達にならなければ、思い通りの料理はできない。だから、炎との会話を大切にしていきたい。
素材に火を入れるのは、とても裕紀が要ること。生の味を超えられなければ、その意味がないと思うから。
  調理中の写真  
 
  桑名 こちらのお店は、厨房がカウンターで囲まれていて、すべてが丸見えになっていますよね。このコンセプトは、どんなところに発想の原点があるのでしょうか?
 
木下 ヒントは、僕が以前シェフを努めていたモレスクというお店にありました。そこにはお客さんの目の前で素材を切ったり、調理したものを盛りつけたりするキッチンテーブル(作業台)があって、気心の知れたお客さんが来た時だけ、特別に客席として開放していたんです。
ところが次第に、その席に座りたいという一般のお客さまが増えてきた。やっぱり、料理に興味のあるお客さまが多く来てくれていたんだと思います。僕が目の前で調理していると、「シェフ、今、何を入れたんですか?」という質問が来たり、でき上がった料理を出すたびに写真を撮ったりして。そんなやりとりの中で「こんな作り方もあるんだよ、ちょっと食べてみてよ」というような会話が生まれると、そこに座ったお客さんは、特別な扱いを受けているような感覚に浸れたんだと思うんです。
前の店でそんな経験があって、今回、新しくお店を出すときに、すべてのカウンターを厨房の前面に持ってくるコンセプトが生まれました。客席の中に厨房を置くのではなく、厨房の中にお客さまを招待する感覚をカタチにしたのが、「オー・ギャマン・ド・トキオ」の厨房です。
    木下さんと桑名さん  
 
        
 
  桑名 私も以前お邪魔したときに、調理スタッフの方とたくさんお話ししたことを覚えています。そんな会話の中からアレンジを加えた料理を出していただきましたね。
 
木下 そういうことが面白いと思うんです。だから僕だけではなくて、他の調理スタッフにも声をかけてもらえるようにしたかった。ここは僕の店ではなく、スタッフ全員の店だと思ってますから。もっと言うと、店というより家みたいな感じで。それぞれの場所で会話が生まれれば、お客さんもうれしく感じると思いますし。さらにメニューとは違う調理法などを目の前で披露すれば、ライブ感が生まれるはずです。
 
     
 
  桑名 仕入れた素材を見てから、その日のメニューを決めるそうですが、そのスタンスもライブ感を大切にしたいという思いから取り入れたのでしょうか。
 
木下 メニューを固定しすぎると、お客さんからの注文が先にあるのに、その期待に応えられる素材が手に入らない時が、どうしてもあるんです。まずは、そこを解消したかった。それと、メニューも含めて毎日、何が起こるか分からないライブが夕方6時からスタートする、というような舞台感覚を大切にしたかったのもありますね。
    調理の写真  
 
        
 
  桑名 なるほど。これだけすべてを見せてしまう時に、どんなことに気を使っていますか? それこそ、洗い場まで見せるというのは、すごく思い切ったことだと思うのですが。
 
木下 やはり常にキレイにするということ。一番若い調理スタッフには「朝早く来たら、仕込みも何もしなくていいから、とりあえず掃除をしなさい」と言っています。このフロアは毎日、たわしを使って手磨きするんですよ。他の店ではシェフをやれる力を持っている彼らにも、今まで教わってきたことをゼロに戻して、もう一度床掃除から始めてもらったんです。僕の分身とも言える彼らには、自分と同じ考えを共有してもらわないと、思い通りのお皿は表現できませんからね。料理に携わる者にとって当たり前のことなんですけど、そこは大事にしたいところです。
    調理中の写真  
    それと、僕はフランス料理でお寿司屋さんのような店をやりたいという思いもありました。寿司屋の大将がカウンター越しに、「今日はこんな魚が入ったよ」という会話から始まって、いざ握るときにキレイなまな板で切ってくれるのか、血だらけのまな板で切るのか、その時点で食べたいか、食べたくないかって決まると思うんです。うちのスタイルは、その感覚にすごく近いんじゃないかなと。
 
桑名 お店に入ったときに凜とした印象を受けるのは、そういう姿勢が表に現れてきているからなんでしょうね。
 
  続きの記事を読む