TOKYO GAS エネルギー・フロンティア
  厨房で働くあなたの心に着火 プロの厨房を応援する情報誌
Bo! [ボッ]
  炎と友達にならなければ、思い通りの料理はできない。だから、炎との会話を大切にしていきたい。  
    調理中の写真  
 
  桑名 このお店のつくりを見たときに、すごく格好いいと感じたんですけど、何か格好よく見せるために、こだわったり工夫していることはありますか?

 
木下 格好よくしようと思って物を作ると格好悪くなるんです(笑)。たとえば、サービスマンが物をいっぱい持って、カウンターの後ろを通ろうとすると、うちの場合かなり狭くて厳しいわけです。でも、その狭さがあるから「失礼します」と声をかける。その声が、活気につながるんです。
ところが、カウンターの後ろが今よりひと回り広くつられていると、殺風景な店になってしまう。格好よさを追求するよりも、仕方なくこうなったぐらいのほうが、結果的にはそれが格好よさに繋がると思いますね。自分がいま置かれた環境の中で、いろんな知恵を絞った、というストーリー性の方を大事にしています。
 
        
 
  桑名 なるほど。ところで木下さんは、炎との関わりの中で大切にしていることはありますか。
 
木下 僕は炎と友達になりたいと思っています。陶芸家が器を焼くのと同じように、炎と友達になれていない時は、なかなか自分の思い描いた通りに仕上がらないものです。だから炎と友達になれるように、毎日、炎と会話をしながら仕事をしていきたい。
たとえば、昨日は鉄板のこの位置でこんな焼け具合だったから、今日はこの辺を使ってみようとか。今度、このタイミングで中火にしてみようとか。その会話を繰り返すことで、仕上がりの感覚を覚えていくんです。その会話は延々と続いていくと思いますけど、何も考えないで調理をしていたら答えは見えてこないと思います。
 
     
 
  桑名 そういう思いがあったんですね。それと、こちらのお店にはガスの炎があり、鉄板があり、グリヤードには炭もあり、さらにIHもお使いですよね。その熱の使い分けはどのように考えていますか。
 
木下 IHの場合は水分がメインですね。お湯やソースを沸かしたりするのがスピーディにできますから。
ガスの炎は煙の味や香ばしさを加えたいとき。特に肉の塊を焼くときに使います。さらに、もっと香りをつけたかったり、余分な油を落としたい場合は炭を使っています。常に炭火がいいというわけではなく、適材適所で使い分けていますよ。
ガスの余熱はウォーマーとしても役立っています。ごくふつうに見える食器棚ですが、実はオーブンと鉄板の余熱でお皿が温まる仕組みになっていて、収納の省スペース化にも一役買っています。
    厨房の写真  
    背面のオーブンと鉄板の余熱でお皿が温まる、ウォーマーの機能を兼ね備えた食器棚。  
   
        
 
  桑名 話は変わりますけど、「オー・ギャマン・ド・トキオ」という店名の「ギャマン」は、「いたずら小僧」という意味だそうですが、どんな思いから名付けられたのでしょうか。
 
  木下 「ギャマン」は、僕がフランスで働いていたときにつけられたあだ名で、悪ガキという意味もあるんですよ。
フランスにいた当時は、自分で紙を切り抜いてつくったゴキブリをお偉いさんのタブリエ(前掛け)の上に置いて、いたずらしたこともありましたね(笑)。それに、このやんちゃな感じは「こんな風に調理したらどうなるか」と楽しみながらつくる自分の料理にも通じるし、愛着があって今回お店を出す時に名前に使いました。
最後に「トキオ」とつけたのにも理由があります。今、フランス料理、イタリア料理のコックさんは、向こうにすごく憧れを持っていて、フランスでやっていることはそのまま受け入れるけど、日本発信のものに関してなかなか「うん」とは言わない。ところが本国の三つ星シェフは非常に柔軟性があって、醤油がうまいと思えばすぐに使うし、味噌がうまいと思えばすぐに味噌を使うんです。せっかく僕らは日本人で、いい調味料であったり、文化や歴史を持っているのに、怖がってなかなかそれを使わないのはもったいないですよね。
 
    調理中の写真  
    東京スタイルじゃないですけど、東京発信のフランス料理を作って、今度は「あいつらをこっちに振り向かせようぜ」という思いで、「トキオ」と付けさせてもらいました。
 
  桑名 なるほど。とても面白いですね。シェフが大切にしているやんちゃな感じが、食べる側のわくわく感にも通じているのですね。今日は、ありがとうございました。  
 
  前の記事を読む