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Bo! [ボッ]
第5回「厨房で、話そう。」 田村隆 聞き手・桑名朝子
① ベースに本物がなければ、本物の遊び心は生まれないと思う。
② 最高の舞台を演出するために、いちばん働きやすい舞台裏をつくったんだ。
ベースに本物がなければ、本物の遊び心は生まれないと思う。
  調理中の写真  
 
  桑名 「つきぢ田村」さんは、三代に渡って伝統を受け継がれてきた老舗の中の老舗ですが、その味を支える先代からの教えをお聞かせいただけますか。
 
田村 たとえば、熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、お客さんのタイミングを見て出すこと。それから、安い魚の腹よりも、高い魚の尻尾のほうが旨い、ということもよく聞かされました。安物買いの銭失いという言葉が昔からあるように、いい材料を買って無駄なく使えば、結果的に高い買い物ではないというのが田村の哲学です。
たとえば、大根を買って桂剥きにする時に、うちではまず大根の葉っぱを刻んで佃煮にします。その後に皮を剥いて、刻んで切り干し大根にする。そこまでしてはじめて真ん中のいいところを桂剥きにして“けん”をつくるわけです。やっぱり素材のすべてを生かせるようになって、一人前の料理人と言えると思うんです。大根の真ん中は、どんな人が料理してもおいしくなりますけど、大根の端をきちっと長さを揃えて切り、太さを揃えて刻み、きちっと広げて干すことを学んだ料理人は、何をやってもきれいな仕事ができますよ。そこには、後にやることを先にやれという先代からの教えも生かされているんです。
    料理の写真  
 
        
 
  桑名 私たちは、そういった先代からの教えが、ぎゅっと凝縮された料理をいただけるわけですね。
 
田村 そういう教えばかりに気を取られていると疲れちゃうけど、それでいいと思っているんですよ。ちゃんとした料理人を育てていくことが、これからの僕の挑戦だと思ってますし。なにも海外に出て店を出したいとか、世界に名を残したいとか、そんなことはまったく考えていないの。うちの弟子たちが外へ行ったときに「どこで修業したの?」と聞かれて、「つきぢ田村です」と答える。その時に「ああ、そうか」と納得してもらえるような料理人を育てていきたいんですよね。
そういう「人」が増えれば増えるほど、おいしい料理ができるわけだから。つまり、料理って人格から生まれるのかなと思うわけです。
調理中の写真
 
     
 
  桑名 なるほど。では、料理の世界で人格者を育てるには、どのようなことを教えていけばいいと思われますか?
 
田村 簡単なことだと思うんです。日々、当たり前のことを当たり前のように、当たり前を癖にすればいいんですよ。
ご飯は左、おつゆは右とか。「お先にいただきます」とか、「おはようございます」という挨拶がしっかりできるとか。何か古めかしいんですけど、うちではそれが当たり前なんですよ。人格者と言うと大げさだけど、単なる「調理人」じゃなくて「料理人」としていい味を出していってもらいたいと思ってます。
    田村さんと桑名さん  
    今の時代、料理も様変わりしてきている。けれど、時代に迎合してみんなと同じにする必要はないんです。たとえば、歌舞伎の世界では「けれん」と呼ばれる演出がある。宙乗りだったり、舞台に水を張って演じたり。お客さんを喜ばすための遊び心なんだけど、そのベースにはちゃんと本物がなきゃいけない。料理も同じで、何をしてもいいと思うけど、ちゃんと基本を重んじていて、食べたらおいしいってことを忘れちゃいけないと思うんです。
 
 
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  http://www.tsukiji-tamura.com/