TOKYO GAS エネルギー・フロンティア
  厨房で働くあなたの心に着火 プロの厨房を応援する情報誌
Bo! [ボッ]
  最高の舞台を演出するために、いちばん働きやすい裏舞台をつくったんだ。  
    調理中の写真  
 
  桑名 先ほど「つきぢ田村」の教えの中で、冷たい料理は冷たいうちに。温かい料理は温かいうちに。というのがありましたが、その考え方が、厨房づくりにも反映されているのですか?  
田村 うちは1階から5階まで、お客様をお迎えする部屋を用意していますが、各フロアにそれぞれ厨房があるんです。なぜかというと、たとえば100人の宴席で、最初の1人には熱々のお椀が出て、最後の人が「どうしちゃったの、これ、ぬるくない?」っていうお椀を出したくないからです。最初に出された人も、最後に出された人も、おなじ熱さで、おなじ味で伝わらないといけない。それと、いい仕事をするためには、料理人が働きやすい広さがないといけないと思ってます。
ある時、演舞場に差し入れをお持ちしたときに、客席と回り舞台、その奥にある楽屋を一度に見通せたことがあったんですけど、その時に「なんと客席の狭いこと」と僕は思ったわけ。ふだん、客として見ている舞台は狭いかもしれないけど、その裏には驚くほど広いバックヤードがあるんです。あの時、ちょうどうちの店も工事をしていたんですけど、「これ、ありかもしれない」と思いましたね。やっぱり最高の舞台を演出するためには、舞台裏でものすごい準備をしているわけで。それって、料理も同じなんだと思ったんです。
 
    調理中の写真  
 
     
 
    だからうちは黒子として動く人にとっては非常にぜいたくなつくりで、生産性の低い料理屋なんです(笑)。ひとつの店の中に、5軒分の厨房があるようなものですよね。でも、分かる人には分かるんですよ、そういうことって。召し上がる時のお客さまの唇にお椀の熱が伝わる。手に茶わんの熱が伝わる。厨房からの炎のぬくもりが伝わる。そういう、目に見えない部分こそ大事なんです。
たとえば、“だし”の鰹節と昆布は、いくらでもケチれるわけです。蓋を開けてもそいつらはいないんだから。でも、その姿はないけれど、召し上がってくださったお客さんの舌には、もろに現れるんですね。帰る時に玄関を出て、鰹節と昆布が口の中や鼻腔をくすぐると、お店を振り返りたくなるんです。また来ようかなと思わせるのは、目には見えない“だし”の仕業なんですね。
 
  料理の写真
 
       
 
  桑名 厨房もそういう意味では、お客さんからは見えませんが、おもてなしの舞台を演出する上で、重要な役割を果たしているんですね。その他に、厨房の中で特に工夫されている点とか、こだわられた点というのはありますか。
 
田村 僕は料理をつくる時に、目線を遮るものがない方がいいので、棚を全部取り払ってしまったんです。そうすれば、刺身を引きながら広い厨房のすべてを見渡せる。誰が何をしているかが手に取るようにわかれば、注意もできるし、褒めることもできます。やっぱり、使い勝手のいい厨房と格好いい厨房は違うんですよね。
うちの祖父が僕に「おまえ、景色のいい嫁はんより、間取りのいい嫁はんをもらえや」と言っていたんです。僕の理想の厨房は、それと同じなんですよ。
 
        
 
  桑名 そんな居心地のいい厨房の真ん中に、ガス台が据えてあるんですね。
 
  田村 うちは関西系なので、刺身よりも煮方がメインですからね。ど真ん中にガス台がある。特に1,200食分のおせち料理をつくる年末の4日間は壮観ですよ。炎のお祭りみたい。ガス台を10個並べて朝8時から夕方6時まで煮しめていくわけだから。  
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    やっぱりガスの炎って、エネルギーを感じるよね。食に対するエネルギーであったり、仕事に対するエネルギーであったり。火を見て仕事していると活力を感じるでしょ。料理してるなっていう感じ。そんな力強さを感じる反面、泣きそうなぐらい小さな火も出せたりする。
僕らはそれを見て育っているので、「どれぐらいの加減でこうなる」というのが体にしみついているわけです。だから、いつまでも炎にはこだわっていきたいですね。
 
  桑名 なるほど。本日は興味深い話をお聞かせいただいて、ありがとうございました。  
 
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