オピニオンリーダーが語る
厨房談義 第26回
和・仏コラボレーションセミナー
「料理界の2人のイノベーターによる
インスピレーションを刺激するセッション。」
【和】「銀座 六雁」 秋山能久 氏
【仏】「Liberte a table de TAKEDA」 武田健志 氏
2017年4月10日(月)に、東京ガス業務用ショールーム「厨BO!SHIODOME」で、「和と仏」のコラボレーションセミナーが開催されました。
春に相応しい五島列島の「鯛」を共通のテーマとして、「和」の秋山氏(銀座 六雁)と「仏」の武田氏(Liberte a table de TAKEDA)が、料理でセッション。料理界の2人のイノベーターが、来場されたお客様のインスピレーションを心地よく刺激しました。
セミナーでは、秋山氏が「鯛かぶら ではなく 鯛たけのこ土鍋仕立て」を、武田氏が「五島列島 天然鯛のヴァプール」をそれぞれ披露。最後に2人の協力により「かぶら蒸」を調理していただきました。
それぞれの調理のポイントや、ジャンルを超えた料理セッションの意義について、お話を伺いました。
Subject 1【和】鯛かぶら ではなく 鯛たけのこ土鍋仕立て
「銀座 六雁」 秋山能久 氏
- PROFILE
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秋山能久/1974年茨城県出身。「割烹すずき」「月心居」を経て、「銀座 六雁」の総料理長に。フルオープンキッチンを舞台に、今のエッセンスを伝える日本料理を提案。また茨城大使として地域の食材の可能性を発信している。2016年には有田焼創業400年事業「世界料理学会in ARITA」のディレクターを務めたほか、東急プラザ銀座「数寄屋橋茶房」の料理を監修した。
──今回のレシピ「鯛かぶら ではなく 鯛たけのこ土鍋仕立て」の趣旨をご説明いただけますか。
- 秋山
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鯛は日本人の誰もが愛する国民的な魚です。私はいつも五島列島の鮮魚店から鯛を仕入れています。鯛を素材にした和食というと「鯛かぶら」が有名ですが、今回は春ならではの筍を使いました。同じ季節の旬の食材をいかに合わせるか、どうアプローチし、いかに表現するか。それをテーマにしたいと思います。
──ではレシピをご紹介ください。
鯛かぶら ではなく 鯛たけのこ 土鍋仕立て
- 材料(4人分)
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- 鯛(60g切り身) 4枚
- 鯛頭 1/2個
- 筍 2本
- 若布 適量
- 木の芽 適量
- 《A》
- 酒 600cc
- 薄口 50cc
- 塩 1つまみ
- 《B》
- 鰹出汁 600cc
- 薄口 50cc
- 酒 30cc
- 塩 1つまみ
- 作り方
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- 鯛の頭を切り分け、血合いなどを取り除く。サッと霜降りをし、氷水に落とす。
- 鍋に鯛の頭を並べ、Aを入れ、サッと炊く。
- 筍はボイルして下味をつける。切りつけし出汁で炊く。
- 若布はそうじして、直前にボイルし、鍋に入れる。
- 鯛の切り身の皮に包丁を入れ、2/3火を入れる。
- 土鍋に2で炊いたA、そこにBを入れ、筍、若布を入れる。
- 最後に焼いた切り身を入れ、木の芽を散らす。
──作り方のポイントを教えていただけますか。
- 秋山
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まず「作り方2」の出汁の取り方ですが、鯛の頭を炊くことで特有の臭みを抜き、大切な旨味と香りを引き出します。また《B》の鰹出汁は、私の場合は削りたての鰹節を一昼夜浸けておくやり方です。煮込むと雑味が出てしまうからです。鯛頭から旨味を取り、鰹節で香りを取る、という考え方ですね。
出汁の取り方には様々な方法がありますが、基本を学んだ上で自分の創意工夫を加え、自分の最良のやり方を見つけることが大切だと思っています。
「作り方4」の若布ですが、火を入れすぎないことがポイントです。高温で素早くサッと炊くことで、味と香りを抽出することができます。
土鍋は今回のセミナー用に、有田の安楽窯の特注品を使いました。食材をそれぞれ下処理したうえで、それを土鍋でドッキングします。最後に土鍋で火を入れることで、鯛がぱさつかず、一番美味しいタイミングでお出しすることができるわけです。
Subject 2 【仏】五島列島 天然鯛のヴァプール
「Liberte a table de TAKEDA」 武田健志 氏
- PROFILE
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武田健志/1976年神奈川県生まれ。1995年「Hotel de MIKUNI」入社をスタートに料理人の道を志す。25歳で渡仏、「Troisgros」「Le Jardin des Sens」などで経験を重ねた後、「Hiramatsu」「Sens&Saveurs」で実績を残す。2012年4月、「Liberte a table de TAKEDA」をオープン。ミシュランガイド2013年から4年連続で1つ星を獲得。フランスで感じた自由なスタイルで「日本人らしいフランス料理」を提案している。
──今回のレシピ「五島列島 天然鯛のヴァプール」の趣旨をご説明いただけますか。
- 武田
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私も、鯛は五島列島の鮮魚店から仕入れています。今回はその天然鯛に、春らしいホタルイカと山菜をあわせて、秋山さんの「和」とは趣きの異なるフランス料理を作りたいと思います。ヴァプールとは「蒸す」という意味で、蒸した鯛にソースをかける料理です。
──ではレシピをご紹介ください。
五島列島 天然鯛のヴァプール
- 材料(4人分)
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- 鯛(60g切り身) 4枚
- ホタルイカ 8匹
- 芹 適量
- 山菜(タラの芽・カンゾウ・野蒜など) 各4
- ペコロス 2個
- バター 少量
- ハーブオイル 少量
- 蕎麦の実 少量
- 《ソース》
- 鯛出汁 200cc
- クリーム(35%) 100cc
- バター 30g
- エシャロットヴァンブラン 適量
- 作り方
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- 鯛を1枚20〜30gに切り、セルクル型に詰める。(日本酒を振りかけておく)
- 72℃のスチームに、4〜6分入れる。
- ソースを作る。鯛のだし汁にエシャロットヴァンプラン(エシャロットのみじん切りに白ワインを加え、煮詰めたも の) を加え、1/3の量に煮詰め、クリーム、バターを加えてさらに煮詰め、味を整える。
- 付け合わせの山菜をキュイする。(ブランシール・天ぷらなど)
- 各パーツをお皿に盛り付け、別でソースを用意する。
──作り方のポイントを教えていただけますか。
- 武田
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「作り方1」で、切り分けた鯛をセルクル型に詰めますが、型の壁面をバターでコーティングすることで保湿効果があります。また「作り方2」でスチームに入れて蒸しますが、事前に鯛を詰めた型を冷蔵庫で冷やしておくと、旨味の汁が閉じ込められて美味しく仕上がります。72℃のスチームで4〜6分蒸した後、そのまま10分ほど余熱をあてるとよいでしょう。
ソースを作る時の鯛の出汁ですが、鯛は1日血抜きをして、水と酒を3対1の割合にし、ネギと生姜を入れてヒタヒタの状態で10〜15分弱火で炊きます。
山菜をキュイする(程よく加熱する)ためのハーブオイルは、オリーブオイルとサラダオイルを1対1の割合とし、パセリを入れ、5〜10分弱火にかけます。そこに重曹と塩を少量入れますが、重曹を加えることでパセリの緑色がより鮮やかになる効果があります。また最後に蕎麦の実を加えるのは、食感を出すのが目的です。
Subject 3 【和×仏】かぶら蒸
秋山氏と武田氏による料理セッション
──最後に、秋山さん・武田さんお二人によるセッションで、「かぶら蒸」を作っていただきます。鯛の昆布〆 を「和」の秋山さんが、上から覆うかぶのムースを「仏」の武田さんが担当されるとお聞きしていますが、こうしたセッションはよくなさるのですか。
- 秋山
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武田さんとの出会いは5年ほど前のことです。それ以来、毎年2回ほど料理セッションを行っており、自分にとって大きな学びの場になっています。「料理には料理人の人柄が出る」といわれますが、武田さんのフランス料理は食べていて疲れず、心地よい終わり方が特長だと思います。
- 武田
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学びの場というのは、私もまったく同じです。それ以上に、とても楽しく、面白い。これは中国料理でもイタリア料理でも同様で、ジャンルを超えたセッションから自分がいいなと思った手法を取り入れることは、非常に意義があると思っています。
- 秋山
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日本料理では、クリームやバターはまず使いません。今回の「かぶら蒸」では上にかけるムースにクリームが使われていますが、とても面白い料理になったと思います。日本料理はよく「引き算の料理」と言われますが、他のジャンルとのセッションを生かして新しい味覚や食感を足し算してもよいのではないかと考えるようになりました。
──最後に、お二人が料理をする時に、いちばん大切にされていることを教えていただけますか。
- 武田
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一つは季節感です。季節の旬の食材を使って、自分を表現することが重要だと思います。もう一つは、自分が面白いと感じたことを、より多くのお客様にも感じていただき、認めていただくこと。それが料理人の本望だと考えています。
- 秋山
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料理は、お客様という食べ手がいてこそ成立するものです。食材を生かし、食材にまっすぐに向かっていくことで、お客様に幸せを届けるという料理人のミッションが達成されるのだと思っています。