地域医療を支える急性期病院 防災性

河北医療財団/河北総合病院

30年以上にわたる省エネの取り組みとさまざまな設計の工夫により、
急性期病院として
都内初となるZEBを実現

河北医療財団/河北総合病院

※完成後のイメージパース

1928年に「河北病院」として竣工し、現在は分院を含め東京都杉並区内で最大の病床数・標榜科目を持つ河北総合病院。2025年6月の開院を目指し、阿佐ケ谷駅北東地区土地区画整理事業の一部として建設工事が進められている新病院が「ZEB Oriented」認証を取得しました。
1990年代から積極的に環境活動に取り組んできた河北総合病院は、今回の病院建て替えにおいても基本方針として「診療機能のさらなる充実・向上と健全な経営」「地域保健医療情報センターとしての情報化推進」に加え「日本で最も地球に優しい病院」を掲げています。延床面積が3万平米を超える大規模病院でのZEB取得の難易度は非常に高く、急性期病院(※)の「ZEB Oriented」取得は都内初、全国でもわずか3例目となります(2023年4月現在)。

  • 急性期病院:緊急度や重症度の高い患者に対し、状態の早期安定に向けて医療を提供する機能を持つ病院。24時間体制で医療提供を行う。
[新病院の3つの基本方針(河北医療財団「CSR報告書2022」より)] ①診療機能のさらなる充実・向上と健全な経営 ②地域保健医療情報センターとしての情報化推進 ③日本で最も地球に優しい病院

Point

ポイント

  • Point01 「地球環境との調和」を理念に
    掲げ、30年以上にわたり
    省エネを実践

    河北総合病院を運営する社会医療法人河北医療財団は、1986年から組織理念に「社会文化を背景とし 地球環境と調和した よりよい医療への挑戦」を掲げ、1997年より環境活動の取り組みを開始。1998年には国内の病院として初めてISO14001環境マネジメントシステム認証を取得(※)しました。
    医療においても「過剰に医療資源を投入して治療や投薬をするのではなく、患者にとって必要な医療を適切に提供していく」という姿勢を重視。病院設備についても同様に無駄なエネルギー消費を防ぐため、照明のLED化やコージェネレーションシステム(CGS)の導入を早くから行い、効果を検証しながら省エネを積極的に行ってきました。また、全部署に「環境プロモーター」と呼ばれる環境活動リーダーを配置し、部署ごとに1年間の環境活動プログラムを立案・実践する仕組みを確立。このような病院全体の環境に対する高い意識と取り組みの実績を礎に、設計・建設を担う事業者と連携しZEB認証取得の実現に至りました。
    なお、今回のZEB認証取得により、本計画は経済産業省による「令和4年度ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業」にも採択されました。

    • 現在はKES認証を取得。KES認証についてはこちら(外部サイトへリンクします)
    停電対応型GHP システム図
    ※完成後のイメージパース
    新病院では、敷地内にあったけやきなどの樹木を可能な限り残し、日射遮蔽に活用。さらに植樹も行っていく計画。
  • Point02 パッシブ&アクティブ技術を
    融合し、
    難易度の高い
    “病院建築のZEB”を実現

    24時間稼働や医療設備・医療機器の投資比率が大きいといった特性に加え、感染対策上の理由から病室には全熱交換器を設置できないなど、一般的な省エネ手法が採用しづらいことから、ZEB化が難しいといわれる急性期病院。河北総合病院では、「パッシブ建築計画による建築自体のエネルギー負荷低減」「アクティブな高効率設備機器の導入徹底による負荷低減」をコンセプトに、難度の高い病院建築のZEBを実現しました。
    まず外皮性能を向上させるために、区画整理前の敷地で大切にされていた森の一部を残し、日射遮蔽に活用。敷地形状を利用して東西軸の病棟配置とし、東西面の開口部を最小化した上で、Low-Eガラス等を採用し、建物にかかる負荷を減らすパッシブ手法を採用しました。
    パッシブ手法でまかなえない部分は、高効率な機器を最適容量で導入するアクティブ手法を併用。空調は電気・ガスのミックス熱源を採用し、セントラル系統は大温度差送水による搬送動力の低減、個別系統は機器能力を絞りながら最も効率が良い機種を採用することでエネルギー消費量の低減を図っています。換気については、患者の代謝量や医療機器の運転状況に応じた換気量制御を組み込むなどの工夫を行いました。照明はLED化とともに、部屋の機能に応じた人感センサーなども採用することで大幅な省エネを実現しています。
    建物全体として空調・照明のエネルギー消費量を大幅に削減し、その省エネ効果により、毎年CO2を1,260t、ランニングコストを約3,700万円、削減できる見込みです。

    全体の約60%を占める
    空調・照明の削減効果が大きく寄与

    全体の約60%を占める空調・照明の削減効果が大きく寄与
  • Point03 既存病院で実績のあるCGSと
    ミックス熱源を
    中圧ガス利用で
    導入しBCPに貢献

    河北総合病院では、1997年の既存病院リニューアルの際、院内の給湯使用量を細かく調査した上でCGSを採用。使用する熱量と供給する熱量のバランスをとることで電気と熱の総合効率70%を確保し、また当時の電気料金が非常に高かったことから、初期投資を4年半ほどで回収した実績があります。新病院でのCGSの排熱は給湯及び暖房に利用する計画としており、機器容量は昼間の時間帯に運転させた場合に年間を通して排熱量を使い切れる容量としました。
    また、地域医療の中核を担う同病院では、災害発生時などにおいても医療機能を維持する必要があるため、BCP(※)の観点からエネルギーを多重化する方針が当時からありました。新病院でもその考えを踏襲し、電気・ガス両方の熱源を採用。非常用発電機は72時間連続運転可能とし、都市ガスは新たに中圧ガス導管を引き込み、災害時においてもガス供給停止のリスクを低減する計画としました。さらに、節水利用で3日間の給水確保が可能な容量の受水槽及び緊急排水槽を設置しています。

    • BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)

Interview

インタビュー

「これまでの環境活動と、さまざまな建築・設備的な工夫を重ね合わせることで、環境に優しい病院運営ができると考えています」

落合 直樹

社会医療法人河北医療財団 財団本部 部長

落合 直樹 様

古本 美希

清水建設株式会社 設備設計部

古本 美希 様

Q. 地域の医療における新病院の位置づけについて、お聞かせください。

A. 河北総合病院は、地域の開業医や回復期ケアを担う病院と連携し、患者さんをプライマリ・ケア(※)から急性期、そしてまたプライマリ・ケアに戻していく機能を構築する中で、その拠点となる病院です。また、患者さんの生活背景をはじめ医療や介護に関する情報を他の機関と連携する際のセンターでもあります。新病院ではその機能をより高める必要がありました。(落合様)

  • プライマリ・ケア:あらゆる健康上の問題や疾病に対し、家族と地域の実情と効率性を考慮した上で、総合的・継続的・全人的に対応する地域の保健医療福祉機能

Q. ZEB化を目指した経緯を教えてください。

私たちがこれまでに行ってきた環境活動や、「社会文化を背景とし 地球環境と調和した よりよい医療への挑戦」といった財団の理念を、新病院の設計をお願いした清水建設様に共有し、その上でZEBの提案をいただきました。それを受けて、具体的に取り組むことにしたのです。
敷地の地主様が大切にし、地域にも親しまれてきた樹木を可能な限り活かした病院建築、その中での空調、照明などの設備計画を清水建設様から提案いただき、そこに私たちの環境活動を組み合わせることで、これまで以上にエネルギー効率に優れた、消費エネルギーの少ない、環境に優しい病院運営ができると考えました。(落合様)

Q. 病院が実践している環境活動について、教えてください。

病院の全部署に「環境プロモーター」を配置し、部署ごとに1年間の環境活動プログラムを立てています。環境・省エネに関する情報や取り組みは、環境プロモーターを通じて各部署に周知し、一斉に活動を行う仕組みです。
また、廃棄物や消費エネルギーのデータは、毎月実施している環境マネジメントシステム委員会、環境プロモーター会議でフィードバックし、それにより恒常的なごみの減量や省エネにつながるサイクルを実現しています。(落合様)

Q. 病院のZEB化が難しいといわれる中で、どのような工夫をされたのでしょうか。

基準となる一次消費エネルギーの中で、空調と照明が占める割合が大きく半分以上を占めているため、その部分の省エネに注力しました。「この技術を採用したら必ずZEB化できる」というものはないため、さまざまな工夫を積み上げています。病院ならではというところでは、活動量に応じた換気制御を導入しています。夜間は患者さんが就寝しているため活動量や代謝が落ち、臭気についても低下する傾向がある、という調査結果を踏まえて、夜間では病室の換気風量を通常時の半分にする計画としています。(古本様)
ただし、病院が患者さんに無理な負担をかけるわけにはいきません。病院が患者さんとできるところ、職員ができるところを明確に分けて、患者さんに協力いただきながら環境負荷を減らしていくことに努めていきます。(落合様)

所在地

東京都杉並区阿佐谷北1丁目904-1他

建築
面積

4,846.45㎡

延床
面積

32,844.43㎡

規模・
構造

地上9階、鉄骨造(RCST構法)

竣工
年月

2025年5月予定

設計

清水建設株式会社

ガス
設備

マイクロガスコージェネレーションシステム(ジェネライト)35kW×3台
ナチュラルチラー 1,125kW×2台
蒸気ボイラ 627kW×2台、温水ボイラ 349kW×2台
専用ガバナ

外皮
断熱

Low-E複層ガラス
保存林による日射遮蔽

空調

機器:空冷ヒートポンプモジュールチラー、ナチュラルチラー、電気式ヒートポンプパッケージ、一部ルームエアコン、全熱交換器組込外調機
システム:VAV空調システム、VWV空調システム、大温度差システム、[冷却水ポンプ・空調1次ポンプ・空調2次ポンプ]の変流量制御

換気

インバータファン
病室エコ換気モード(夜間風量50%)
厨房ファンの変風量制御

照明

LED照明
在室検知制御 (人感センサー制御)
タイムスケジュール制御

その他

BEMS
東西軸病棟配置及び東西面の開口部縮小による日射負荷抑制
ヒートポンプ給湯器
超高効率変圧器

  • CGS(ジェネライト)35kW×3台

    ※画像はイメージです

    CGS(ジェネライト)35kW×3台

    最小クラスのガスコージェネレーションシステム。

  • ナチュラルチラー 1,125kW×2台

    ※画像はイメージです

    ナチュラルチラー 1,125kW×2台

    気化熱を利用する環境にやさしい空調システム。

河北総合病院の詳細はこちら (外部サイトへリンクします)
※掲載情報は2024年4月時点のものです

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