先進ガス厨房事例 お茶の水女子大学附属小学校
- DATA
- [所在地]
- 東京都文京区大塚2−1−1
- [URL]
- http://www.fs.ocha.ac.jp/
- [開校]
- 明治11年(厨房改装:平成21年4月)
- [厨房の面積]
- 厨房全体351m2、調理室108m2、検収室21m2、下処理室50m2、配膳室41m2、洗浄室55m2、など)、多目的室248m2
- [1日の食数]
- 約800食(児童数735人、教職員数53人)
- [主なメニュー]
- 「食に関する指導」の視点を取り入れた給食メニューを展開する予定。食物アレルギーにも対応。
HACCPが可能なドライシステムの給食室を実現。“おいしい給食”からはじまる「食に関する指導」とは?
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- 食物アレルギー対応食
- 調理室の一角に食物アレルギー対応食用のスペースを設け、個別に対応できる設備を整えています。事前に親との面談を行い、作成したアレルギー対応マニュアルに沿って安全に調理されます。
お茶の水女子大学附属小学校は、お茶の水女子大学に附属し、本学には小学校のほか、幼稚園・中学校・高等学校があり、大学と同じ緑豊かなキャンパスで子どもたちが学んでいます。
給食室の老朽化により、衛生管理が困難になったため、HACCPが可能なドライシステムの給食室へ改修されました。毎日子どもたちが食す給食は、身近な生きた教材であり、今後、給食を通した「食に関する指導」に大きな期待が寄せられています。
1. 食育の実践と、教育プログラムの構築。
お茶の水女子大学附属小学校の“SHOKUIKUプロジェクト”では、食と健康に関するさまざまな研究を実施するなかで、学校給食に関する研究も1つのテーマとして取り組んでいます。これまでも附属小学校では、食を教材とした非常に興味深い教育が行われています。たとえば“味わいアート”という授業では、お正月の雑煮やおせちを通して“見る楽しみ”“食して味わう”“創造活動”などを体験。こうしたユニークな発想が、今後は毎日の給食という場を通じて、新たな食育プログラムに発展することが期待されます。
2. 「食品の安全性と品質の確保」を実現する厨房づくり。
お茶の水女子大学附属小学校では、「食品衛生法(厚生労働省)」および「学校給食衛生管理の基準(文部科学省)」などに基づき、HACCPの概念に対応した調理施設設備および運営方法を導入しています。汚染区域(検収室、下処理室、洗浄室)と清潔区域(調理室、配膳室)を区切り、人や食材の流れをルール化することで交差汚染を防止し、衛生管理の徹底を図ります。また、限られた予算を有効活用するためには長く使い続けることが必要であり、メンテナンスのしやすさも考慮しています。
計画の段階では、他校の厨房事例や業務用ショールーム「Task」などの見学も参考になったとのこと。実際には建物構造上の制約や予算の関係もあり対応しきれない部分もありましたたが、「食品の安全性と品質の確保」を実現する衛生的な厨房づく
りには、機器や設備を「どのように設置するか」「どう使うのか」という点が非常に重要であることに着目し、上手に問題解決されています。
1 HACCP対応の厨房レイアウト(汚染区域・清潔区域)
HACCPとは各工程で起こりうる危害を抽出し、管理ポイントでの数値管理を徹底することで、危害を未然に防ぐための手段です。HACCPは手順でありマニュアルですが、土台としての環境が整っていないと成立しなせん。そのため、「施設配置計画、ゾーニング、動線計画、サニタリーデザイン」といった建築要素と、「空調換気計画、給排水計画、照明計画」という設備要素のあらゆる面を一貫した考えのもと計画されています。
- 検収室(写真左上)、下処理室(写真右上)、調理室(写真左中)、配膳室(写真右下)、洗浄室(写真左下)
2 衛生的な空調設備
厨房改修後は、各ゾーン毎に対応した排風機を設置し、衛生的で快適な空間をつくり出しています。また、空調は経済効果の高いガスヒートポンプを採用しています。
- 調理室の室内機(写真左)、室外機(写真右)
3 排水溝と床のキープドライ
下処理室や洗浄室など水を大量に使うエリアを除き、調理室などは側溝を極力なくしています。また、清掃作業を軽減させるため、グレーチングは軽量アルミ製としました。
4 サニタリーデザイン(衛生性確保)
清掃性の良さは毎日のことだけに、人件費にもかかわる重要なポイントです。(A)床は作業性やメンテナンスも容易な長尺シートを採用。R加工で清掃性も向上しました。(B)腰壁は清掃性・耐久性・美観を備えたSUSの板を貼っています。(C)エリア毎に床を色分けし、作業者の意識付けを促しています。
ご利用者に伺いました!
まずは、おいしい給食づくりから。
お茶の水女子大学
附属小学校長
菅本晶夫氏- 今回、給食室の老朽化により、衛生管理が困難になったため、「HACCPが可能なドライシステムの給食室」への改修が必要で
した。1年間にわたり、小学校と大学のメンバーによる合同委員会で、「施設」「運営」に関して多くの議論を重ね、「食に関する指導」を踏まえた学校給食を提供するための厨房づくりを行った結果、かなりいいものができたと考えています。
また、新たに経験豊富な栄養教諭を迎え、いよいよ始まる給食を通しての「食に関する指導」にも大きな期待を抱いています。“人間は食から命をもらって生きている”ーこうした基本に気づき、学び、食に対しての意識を高めていってほしいと考えています。
“食に関する指導”を実りあるものにするために、はじめにすべきこと、それは「おいしい給食」を出すことです。おいしさは子供たちの心を捉え、食に興味を抱かせます。またそれに応えて、先生方も力を入れるようになる。「食に関する指導」を実施する上で大切なのは、給食に携わるすべての方がそれぞれにモチベーションを持ち意識高く臨むことでしょう。
ところで、おいしい給食といっても子どもたちが食べたいもの、という意味ではありません。栄養教諭が専門家の視点でいいと思うもの、それが栄養的にも食文化的にもバランスの取れた豊かな食事になると考えています。多目的室を活用したバイキング形式など、今後の可能性はさまざま。将来的には、ここでの試みが小学校の「食に関する指導」の教科書となるよう取り組んでいきます。
ご利用者に伺いました!
食文化の大切さも伝える“食育”へ。
お茶の水女子大学
大学院准教授
食育プロジェクトリーダー
藤原葉子氏- 一般に、食育は「栄養と健康」の側面が大きく取り上げられますが、食育をもっと幅広く「食文化」の視点で捉えることも大切だと考えています。実際、煮ると茹でるの違いや、ひと煮立ちがわからない子どもたちも多数います。こうした現状も踏まえ、“生きる力”を身につける総合教育として、食を教材とした教育プログラムを構築したいと考えています。
本学では日本の食育のリーダーとなる栄養教諭を育成する人材を輩出するとともに、活動成果は『食育お茶大モデル』として提案し、社会に貢献する食育研究の拠点になることを目指しています。