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オーナーシェフに聞く「独立開業への道」

ドキュメント/最適厨房が出来上がるまで

20年来の夢を実現させた「こだわりの厨房」、下村シェフが、そこに込めた思いとは?

Part3. 料理への熱い想いから生まれた、厨房設計の工夫とこだわり

●「快適性」を実現する換気天井システム

換気天井システム
天井全体に設置された換気天井システム。加熱スペースの調理排気を吸い上げ、デザート皿が並んだコールドテーブルに冷気が降り注ぎます。凹凸がない形状はデザイン的にも美しく、音も静かです。夏でも驚くほど涼しい厨房を実現しています。

「エディション・コウジ・シモムラ」の厨房は、約13坪。40坪ある店舗施設全体の3分の1を占めています。また表通りに面しているのは、客席ではなく厨房。その理由を、下村氏は次のように語ります。
「客席と厨房のスペース配分については、本当に悩みました。でも働くスタッフが快適でなければ、良い料理は作れません。厨房から外が見えるようにしたのも、スタッフがその日の天候を感じ取り、ご来店いただくお客様の気持ちを察して調理ができるようにしたかったからです。」
厨房には換気天井システムを設置、天井全体が換気フードの役割を果たすこのシステムにより、効率的な換気を実現しました。厨房内を涼しく保つことが可能となり、スタッフが快適な環境で働けると同時に、衛生性も向上しました。またコンロやグリドルなどの熱源から出た暖かい調理排気が吸い上げられ、逆に給気された冷たい空気はデザートなどを調理するコールドテーブルの上に降り注ぐため、厨房レイアウトにも合致した空調が実現しています。

●「コミュニケーション」重視の厨房レイアウト

厨房レイアウトにも、下村氏独特のこだわりがあります。壁に向かって作業をするのではなく、シェフからスタッフ全員の動きが見渡せる厨房レイアウトを採用。またシェフの視界をさえぎる棚などを排除し、厨房内のコミュニケーションが円滑になる工夫がなされています。
さらに、食材の保管→下処理→調理→盛り付けの作業動線に合わせて、厨房設備を冷蔵庫→加熱スペース→サービステーブルの順に配置。また、サービステーブルはサラマンダーを境として、コールドスペースとホットスペースが設置され、料理が最適な温度で盛り付けられるようになっています。

厨房平面図

サラマンダー通常のサラマンダーと「下村流」サラマンダー
シェフの視線で見た加熱スペース(手前)とサービステーブル(奥)。調理からサービスに至るまで、シェフの視線を遮るものは何もありません。サラマンダー(赤色の機器)も、サービススタッフが全方向から皿を取り出せるよう、三方開放型の機器が選択されています。

●「多様な素材と調理法」に対応したガス厨房機器

グリドルを上からみたところ
H型バーナーを採用し、あえて表面に温度差をつくることができる構造となっている。

下村氏が設置したガス厨房機器の内訳は、コンロ(4口)、プラック(1台)、グリドル(1台)、オーブン(1台)、スチームコンベクションオーブン(1台)。サラマンダーは電気式を採用しています。
「厨房機器は、ガスを基本に考えました。フランス料理は、素材も多様ですし、加熱・調理方法もいろいろあります。従って、熱源が目で見えて、炎を自在にコントールできるガス式が、やはり最適なのです。」
同時に下村氏は、「ガス式でも電気式でも、素材と調理方法に最適なものを選ぶべき」と指摘します。
「サラマンダーを電気式にした理由は、安定した弱火が必要だったからです。焼き色を付けたりする場合にはガス式がよいのですが、電気式には低温が安定しているという良さがあるのです。また同じガス式でも、たとえばグリドルとコンロとでは使い方が異なります。アロゼというフレンチの技法、つまりフライパンを傾けて底にたまったバターを肉の上からかけることで、炎とバターの両方の熱で加熱する調理法は、ガスコンロでしか出来ません。逆にグリドルは鉄板が厚いので、素材を載せても温度が下がりません。ですから魚介類などの表面だけに薄く火を通して香りを立たせたい場合などには、グリドルが最適なのです。特に、ガス式のグリドルの場合、内部にH型バーナーが2台、横2列に並んでいるので、右側のみを点火したり、左側は半分のみ点火したりと、状況に応じて細かい火加減を調節し、メリハリのある使い方が可能です。シェフの感覚で温度ムラを自在に使い分けることができるわけです。」(下村氏)

●下村シェフ特注のグリドル

下村シェフ特注のグリドル(中央)。コンロ(右手前)とグリドルの間の仕切り壁を外し、使い勝手を向上させました。またグリドルの油がコンロ側に流れないよう、溝を作っています。さらに、グリドルの仕切り壁の接合部分に油が溜まらないよう、ハンダ付けでR加工が施されています。

下村シェフ特注のグリドル下村シェフ特注のグリドル

●作業台としても使えるローレンジ

グリドルの横には、フォンドボーを取るスープレンジを設置。毎日は使わないため、通常は特注のステンレス製の蓋をかぶせて作業台として活用、デッドスペースを極力なくしています(写真は蓋をかぶせたところ)。

作業台としても使えるスープレンジ作業台としても使えるスープレンジ

●保温用のシェルフにさえも細心のこだわり

コンロ・グリドル・プラックの加熱スペースの上に、保温用のシェルフを設置。それぞれの機器の放熱特性が異なるため、また調理排気部分に角度をつけることで、シェルフ上の食材への加熱度合いを使い分けられるようになっています。シェルフの奥行きは、調理中に頻繁に使うパイ皿の直径に合わせて設計。高さももっとも使いやすくなるよう、シミュレーションを重ねたうえで決められました。

保温用のシェルフ保温用のシェルフ

包丁や鍋、パイ皿などの調理道具置き場は、実際に厨房を2〜3週間使ってみたうえで、動線や使い勝手を見極めて決定されました。また使い始めてから下処理用の作業台が不足していることがわかり、コールドテーブルの側面に折りたたみ式の簡易作業台を取り付けました。

Part4. 料理に想いを込めれば、独立開業への道が拓ける!

●美味しさと美しさを、多くの人と分かち合いたい

オープニングパーティの当日、多くの人々が集まってくれた様子を見て、下村シェフは「自分の料理観は間違っていなかった」と確信したそうです。「2006年9月に乃木坂のフランス料理店『レストランFEU』を退いてから、大分時間も経っていましたから、正直不安もありました。でも、お客様は覚えていてくださった。多くの方々が下村流の味わいに満足してくださった。それが何よりも嬉しく、これはしっかりとお返しをしなくては、と思いを新たにしました。」
そして下村シェフは、今後もフランス料理に自分の思いを込め続けたい、と語ります。「私も若い時にはいろんな苦労がありました。でもフランス料理に食の可能性を感じていましたし、だからこそフレンチのオーナーシェフを目指しました。自分が美味しく、また美しいと思う料理を、お客様にも共有していただきたい。そして自分のフレンチを素晴らしいと思っていただきたい。その一心で修業を続けてきたのです。料理に思いを込めれば、お客様に喜んでいただけるし、元気になっていただける。スタッフも集まり、良いチームワークも実現する。私が今回独立開業できたのも、自分のそんなフレンチに対する思いが多くの人々の心に届き、協力していただけた結果ではないかと思います。」
美味しさと美しさを、多くの人々と分かち合いたい、という下村シェフ。そんな熱い思いがあったからこそ、極めて先進的で理想的な、下村シェフにとっての最適厨房が実現したといえるでしょう。

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エディション・コウジ・シモムラエディション・コウジ・シモムラ
[所在地]
東京都港区六本木3-1-1 六本木ティーキューブ1階
[TEL]
03-5549-4562
[URL]
http://www.koji-shimomura.jp/

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