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オーナーシェフに聞く「独立開業への道」

徹底インタビュー/私のお店が出来上がるまで ⑨

生涯現役のフレンチ・シェフとして、
ぶれないコンセプトと料理への情熱で
自分のフランス料理を極めていきます。

フレンチレストラン「Strasvarius ストラスヴァリウス」
オーナーシェフ 小山英勝 氏
1955年、東京都浅草生まれ。調理師専門学校卒業後、フランス料理の道に入る。1977年に東京神宮外苑「東洋軒」へ入社し、28歳の時に総料理長の勧めでスイス・フランスの有名レストランで4年半修行。帰国後、銀座「レカン」で各セクションシェフを経験。1991年に株式会社エクセレントコースト社の「ミロワール」料理長、1993年に取締役総料理長となる。
1999年よりオーストラリア「ホライゾンゴルフリゾート」エグゼクティブシェフに就任、2000年には最優秀料理人シェフ・オブ・ザ・ハンターとなる。2001年に株式会社クイーン・アリス入社、大使館勤務、パンパシフィックホテル横浜料理長に就任。2003年、横浜関内にレストラン「ストラスブール」を開業、2006年、姉妹店「ストラスジュール」出店。2017年6月に2店を統合し、「ストラスヴァリウス」を開業。

Part1 生涯現役のフレンチ・シェフとして生きる覚悟

すべての経験を結集させ、料理人としての
“ラストステージ”にふさわしい理想の店を作る。

──2017年6月にレストラン「ストラスヴァリウス」を開業されましたが、その経緯を教えてください。

小山

私は今年で62歳になりました。最近は、あと何年料理人が出来るのか、そもそも自分は何をしたかったのか、ずっと自問自答していました。そして、生涯現役で料理を作り続けたい、そしてこれまでの経験をすべて結集させた理想の店を作りたい、という結論に至りました。

最初に開業したのは、2003年の「ストラスブール」です。お陰様で繁盛店となり、2006年には姉妹店の「ストラスジュール」を出店しました。しかし心の中では、多店鋪展開で拡大成長を目指す“フードビジネスマン”ではなく、自分の料理を自分のスタイルでお客様にご提供する“料理人”で生涯を終えたいという気持ちが膨らんでいました。自分のすべての経験を1店鋪に注ぎ込み、本気で理想の店を作ろうと思ったわけです。

お店のコンセプトは、豪華絢爛なグランメゾン(高級レストラン)ではなく、適度にカジュアルな店内でお客様にリラックスしていただき、本物のフランス料理を楽しんでいただく、というものです。内装やインテリアにも徹底してこだわり、壁紙はイギリスから、カーテンはイタリアから取り寄せました。メニューは昼・夜ともにコース料理とし、自分の料理人としての技術と知見を結実させました。サービスまで含めて店のすべてをグリップできる、30坪の理想のフランス料理店を実現させました。

お客様はほとんどがリピーターです。横浜の関内エリアは、以前はフランス料理のお店も多かったのですが、この15年間で減り続け、今では数店しかありません。そうした状況の中で、お客様に来店し続けていただけるOnly Oneの店でありたいと思います。もちろん時代の変化に対応して、ネットを活用した新規のお客様へのアプローチも行っていくつもりです。

アンティークとモダンが融合した店内の雰囲気。ラベンダーを基調とした色使いや、照明・カーテン・壁紙・アシエット、そしてお客様と会話ができるカウンターまで、全てに小山シェフのこだわりが伺えます。

Part2 周到な準備と熱意が独立開業には不可欠

店鋪物件を求めて、不動産屋に通い詰める毎日、
半年間、不動産取引を独学して熱意を伝える。

──独立開業を意識されたのは、いつ頃のことでしょうか。また独立する際、一番ご苦労されたことは何でしょうか。

小山

私が独立開業を意識したのは、46歳頃のことです。調理師専門学校を卒業した後、国内で約8年、スイス・フランスの有名レストランで4年半、修行をしました。その後、日本とオーストラリアで総料理長を務め、いくつもの賞をいただくなど、約25年間料理人として非常に多くの経験をさせてもらいました。

でも、自分の店を持ったことはなかった。料理人に必要な情熱や、店を運営していくパワーを考えた時、やるなら今しかない、と思ったのです。当時私は「クイーン・アリス」のパンパシフィックホテル横浜店の料理長でしたが、石鍋裕シェフも暖かく送り出してくれました。

一番の苦労は、店鋪物件探しだったでしょうか。当たり前のことですが、料理人はほとんどすべての時間を厨房で過ごします。料理長になって初めて、お客様と会話をしたり、社会との接点ができます。つまり世の中のことには疎いのです。

サービスは、奥様とスタッフが担当。60種類以上あるワインリストは価格別に並べられており、お客様にわかりやすいサービスを提供しています。

ところが独立開業の場合、店鋪物件という不動産と向かい合うことになります。私は当時、スケルトンという言葉すら知りませんでした。半年間、不動産取引のことを勉強し、店鋪物件を求めて横浜関内エリアを自転車で走り回りました。不動産屋さんにも通い詰め、熱意が通じて良い物件を紹介してもらえるまでになりました。金融機関に対しても、数十枚の事業計画書を作って交渉に臨みました。独立開業には、周到な準備と熱意が不可欠なのだと思います。

2003年に開業した「ストラスブール」は、お陰様でオープンから連日満席状態が続きました。長年横浜で料理長をやったのでファンのお客様も多く、また雑誌でも非常に好意的に数多く紹介していただくことが出来ました。

Part3 独立開業する時に、自分に問い直すべきこと

覚悟を決め、周到に準備し、ぶれないコンセプトで
料理への情熱を継続させることが大切。

──これから独立開業を目指す若い料理人の方へ、アドバイスをお願いします。

小山

まず、自分は本当に料理が好きなのか、一生続けていく覚悟があるかどうか、自分に問い直してください。料理に対する情熱がなければ、継続することはできないと思うからです。

私は20代の4年半、スイス・フランスで修行しました。言葉の壁にぶつかりましたが、英語・ドイツ語・フランス語を実地で勉強しました。現地のスタッフとの会話にも不自由しましたが、それでも必死に食らいついていった。仕事はもちろんキツかったのですが、私はそれを苦労とは感じませんでした。それらはすべて、私が料理を好きだったからです。

オーストラリア時代も、その時々の目標を自分で決め、努力しました。コンクールで優勝したい、グランシェフの立場になりたい、そのために普通の人の倍は仕事をしたと思います。これも料理と素直な気持ちで向かい合い、自分のフランス料理を極めたいという気持ちがあったからだと思います。

今、横浜関内エリアでは、1年半でテナントのお店が変わります。それだけ厳しい時代です。残っているお店に共通するのは、コンセプトがぶれていないという点です。そして自分で覚悟を決め、周到に準備し、料理への情熱を継続させることができれば、きっと協力者が出て来るものです。

毎日最低1時間の清掃で、ピカピカに磨き上げられた鍋・換気フード・ガスコンロ。「清潔で美しい厨房からしか、おいしい料理は生まれない」と小山シェフ。

お店を継続させることは、実は大変なことです。私の店では、閉店後に最低1時間、毎日清掃をしています。ですから換気フードもダクトも鍋も、みんなピカピカです。新しいスタッフが入ると、これが15年間使っている厨房ですか、とビックリするほどです。

また店の経営という観点では、仕入の原価率に徹底してこだわっています。毎朝眠い目をこじ開けて卸売市場に通うのも、原価を抑えてお客様にリーズナブルな値段で自分の料理をご提供するためです。これも料理が本当に好きでないとできないことでしょう。

私は今の「ストラスヴァリウス」を、自分の料理人としての“ラストステージ”だと考えています。ここで自分のフランス料理を磨き上げていきたいと思います。

フレンチレストラン「Strasvarius ストラスヴァリウス」
[所在地]
横浜市中区常盤町3-27-2
[TEL]
045-227-7018
[営業時間]
11:30〜13:30(LO) 15:00(閉店)
18:00〜20:30(LO) 22:00(閉店)
[定休日]
月曜日
[コース]
昼3,980〜7,800円(税別)
夜7,800円〜12,000円(税別)

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