1. 最適厨房ホーム
  2. オーナーシェフに聞く「独立開業への道」
  3. 徹底インタビュー/私のお店が出来上がるまで (11)

オーナーシェフに聞く「独立開業への道」

徹底インタビュー/私のお店が出来上がるまで ⑪

深化し続ける「ラフィナージュ」にとって
東京ガスの「厨房相談室」は、店づくりの
良き相談相手でありパートナーでした。

レストラン ラフィナージュ
オーナーシェフ 高良康之 氏
ホテルメトロポリタン勤務を経て、1989年に渡仏。パリ・サヴォワ地方などフランス各地で2年間研鑽を積む。帰国後は、赤坂「ル・マエストロ・ポール・ボギューズ・トーキョー」副料理長、日比谷「南部亭」料理長を歴任し、2002年「ブラッスリー・レカン」オープンにともない料理長に就任。「銀座レカン」総料理長を経て、2018年10月、銀座五丁目に自身の店「レストラン ラフィナージュ」をオープン。

Part1 料理の基礎を叩き込まれたホテルでの修行時代

洗い場からスタートし、人一倍の努力で
2年間のフランスでの修行を実現するまで。

──最初に勤めたホテルメトロポリタンで、どんな修行時代を過ごされたのでしょうか。

高良

1985年にホテルメトロポリタンに就職し、ホテルのコーヒーショップで4年間働きました。その4年間が、私の料理人人生にとって、かけがえのない経験になりました。

そのコーヒーショップの料理長はホテルオークラ出身のフランス料理のシェフで、非常に厳しく指導されました。ホテルは新規オープンしたばかりで、毎日300〜400人のお客さまが来店されます。目が回るような忙しさのなかで、パスタからピラフ、あんみつに至るまで、幅広いメニューをきっちりと作らないとお客さまに提供させてもらえなかった。オリーブオイルの使い方や、コンソメのひき方など、料理の基礎を徹底的に叩き込んでくれたことに、今は心から感謝しています。

──高良シェフは、調理師専門学校には行かれていませんが、かなりのご苦労があったのではないでしょうか。

高良

はい、最初は洗い場からのスタートで、包丁の使い方も知りませんでした。だから人一倍努力はしたと思います。そんな自分を、先輩たちが拾い上げてくれました。

当時、レシピをスタッフに公開してくれるレストランはなかったと思います。でも必死に食らいつきました。メモを取ろうとすると「覚えろ!」と叱られる。仕方なく、マジックペンで手や腕に書きました。もう手は真っ黒です。それを深夜勤務や家に帰った時にメモ用紙に転記しました。後で見ると、そんなメモ用紙が箱に数千枚入っていましたね。

新メニューが出ると、必要な材料や調味料を自分で調べてシェフの前にセッティングしておきました。シェフは「こいつ、勉強してるな」と思ってくれたはずです。シェフの調理方法やその日に使った材料の分量を見て、2回目以降はしっかり計量して置いておきました。そして深夜それをメモしました。それを繰り返していると、初めてレシピを教えてくれるのです。

また、コーヒーショップの仕事が終わると、寝る間を惜しんで、宴会など他の部門の調理場へ行き、手伝わせてもらいました。そこにも有名ホテルでフランス料理を経験した20代後半の料理人がたくさんいて、大きな刺激を受けた。自分もいつかはフランスへ行きたいという一心で、自腹で1時間6000円払ってフランス語の個人レッスンを受けていました。

パリの三ツ星レストランで働いていたホテルの先輩が、帰国した時に「お前、フランスへ来るか?」と声をかけてくれたのも、そんな自分の姿勢を見ていてくれたからでしょう。フランスの2年間で、計5軒のレストランで修行することができました。

「銀座は本物でないと残れない街です。お客さまも本物を知っている。だからこそ銀座で勝負したかった」と高良シェフは語ります。

Part2 あえて経験のないカテゴリーで鍛えた料理観

フグを食べたお客さまに「日本酒が飲みたい」と
言わせない、厚みのあるフランス料理を目指す。

──その後、日本有数のフランス料理店で、副料理長、料理長を勤められました。どんなことを考えながら働いていたのでしょうか。

高良

帰国後に縁あって、赤坂の「ル・マエストロ・ポール・ボギューズ・トーキョー」の副料理長に就任しました。その後、日比谷の一軒家のレストラン「南部亭」の料理長、新規オープンした上野の「ブラッスリー・レカン」の料理長、そして「銀座レカン」の総料理長と、経験を積んできました。

自分の中では最初から、いつかは独立して自分の店を持ちたいと思っていました。そのために、あえて経験したことのないカテゴリーに挑戦してきました。ホテルレストランや一軒家のフランス料理店、また格式の高いグランメゾン(最高級フランス料理レストラン)からカジュアルなブラッスリー(フランス料理居酒屋)まで、それぞれで貴重な時間を過ごしました。店を移るたびに、その店の個性に合わせて自分の料理観を鍛えてきたわけです。

副料理長を任されていた時は、自分の役割は店を回しながら、シェフが何を考えているか、何をしようとしているかを察して、その幅を広げることだと理解しました。シェフが赤ピーマンを望んだとしたら、他の何色ものピーマンを用意してシェフの選択肢を広げる。自分の料理観を出すのではなく、シェフやその店のキャラクターにプラスアルファーすることに徹するのです。

だから材料を仕入れる時も、最大限の配慮をしました。例えば魚ならば、深夜から朝にかけて漁港から電話が入ります。その日はどんな魚が上がったか、もしシェフが求める魚がなければ代替品には何が適しているか、夜中にやり取りをするわけです。魚を初めとする多くの生産者との深い絆も、副料理長の時に築かれました。

店内はグレーをベースとしたシックなしつらえ。優美な料理としっかりと向き合える空間です。

──2007年に「銀座レカン」の総料理長に就任され、約10年間勤められた後、独立して「ラフィナージュ」をオープンされました。

高良

私にとって銀座レカンは、フランス語で美食を意味する“ガストロノミーレストラン”として憧れの存在でした。給料が安かった若い頃、銀座レカンの店の前に立てかけてあったメニューをメモし、ホテルで試作してみたこともあります。そんな銀座レカンの総料理長は、自分の料理人人生にとって大きな意義があると考えました。

もちろんプレッシャーはありましたが、それまでの経験を独自に再構築し、自分の料理観を展開しました。もちろん、銀座レカンという看板に守られていたことも、また事実です。お客さまは銀座レカンというお店が好きで来てくださっている。銀座レカンというフィールドで料理をするためには、例えばサンマやイワシは使わない、味噌と醤油は使わない、という暗黙のルールがあり、その枠の中で自分の料理観を表現したのです。

2018年10月にオープンした「ラフィナージュ」は、そんな私の30年以上の経験のすべてを注ぎ込んだお店です。ラフィナージュは“熟成”という意味ですが、完成した熟成ではなく、自分の目標へ向けて成長し、深化し続けたいという意志を込めました。

具体的には、素材の味・香り・ソースの3つを深化させ、バランスの良い厚みのあるフランス料理をお出しする。北海道十勝の鹿など、独自に築いた生産者との絆を大切にする。料理の構成や提供する順番、シルバーの種類に至るまで気を配る。ライブ感あふれるカウンターを設け、オープンキッチンならではの醍醐味を感じていただく、等々。多くのカテゴリーを経験し、引き出しを増やし続けた料理人として、それを全部開けてフランス料理として発信したいと思っています。

例えば、フグの料理をお出ししたとします。それを食べたお客様が「日本酒を飲みたい」と思ったとしたら、私の負けなのです。日本だから出来る、ラフィナージュだからこそ出来る、ワインとのマリアージュ。そんな唯一無二のフランス料理でありたいと考えています。

お店づくりに携わった設計事務所、厨房機器メーカー、厨房相談室と綿密な打ち合わせ。

Part3 理想の店作りを実現するパートナーの重要性

現実的な制約で、自分の理想を諦めてはいけない。
多くの選択肢や代替案をパートナーから引き出す。

──「ラフィナージュ」開店にあたって、東京ガスの厨房相談室からアドバイスを受けたと聞いています。

高良

はい、「ラフィナージュ」は新築ビルでしたので、真っ白の状態から設計を行ないました。平面図をもらって、まず自分がやりたいと思っていることを全部ピックアップしました。それを厨房相談室の丸山さんに相談し、非常に多くのアドバイスをもらいました。

店鋪全体の設計から厨房機器の選定、空調の設置方法など、あらゆる面で相談にのってもらいました。例えば、店鋪スペースを有効活用するためにもカウンター席を設けることを選択しましたが、厨房の煙や臭いがカウンター席に漏れないようにするために、風切音が出ない最大の換気量に調整してもらった。また厨房内を歩く時、嫌な雑音が出ないように、床に設けた排水スリットを細型タイプにするなどの工夫をしてもらいました。

特定の厨房機器メーカーから提案を受けると、どうしてもメーカー主導の厨房設計になりがちです。厨房相談室のスタッフはあくまで中立的な観点から、私が理想とする店を実現するために、多くの選択肢や代替案を出してくれました。しかも無料でね。とても感謝しています。

店鋪設計から換気システム、空調、厨房機器の選定まで、厨房相談室が全面的にアドバイスしました。

──これから独立を目指す方に、お店づくりのアドバイスをお願いできますか。

高良

独立開業をする人なら、必ず夢や目標があるはずです。それに向かって努力し経験を積みます。そして、いざ自分の店を作る時には、その夢に描いた理想のお店を客観的な視点から判断し、相談に載ってくれるスタッフがどうしても必要だと思います。私の場合は、それが東京ガスの厨房相談室でした。

店鋪設計をする時には、現実的にいろんな制約が出てきます。物理的にサイズが合わない、予算的に無理、熱源の容量制限、等々。しかし、そこで諦めてはいけない。諦めれば、ああすれば良かったと、ネガティブな気持ちのままオープンを迎えてしまいます。

でも良い相談相手がいれば、理想の実現が不可能な場合の代替案を出してくれます。自分と同じ理想を分かち合って、厨房機器メーカーや施行業者を采配してくれます。いわば理想の店づくりのパートナーになってくれるわけです。

私は今でも、ホテルメトロポリタンでの修行時代に、先輩から聞いた話を思い出します。仕事に慣れてきたある日、洗ったレタスを見た先輩が私に聞きました。「これ、食べたか?」 食べていないことを伝えると、次の日も同じ質問がとんできました。私はハッとしました。「なぜ食べないんだ! レタスは毎日食べて、初めて旬の味がわかるんだ!」と先輩。 どんな仕事でも、毎日を面白くするのは自分次第なのだということを学んだ瞬間でした。

そんな初心を忘れずに、熟成(ラフィナージュ)を目指して、新しいスタートを切ったところです。

厨房相談室の丸山さんと。「厨房相談室は理想の店づくりのパートナーです」と高良シェフ。
レストラン ラフィナージュ
[所在地]
東京都中央区銀座5-9-16 GINZA-A5 2F
[TEL]
03-6274-6541
[営業時間]
ランチ 12時〜14時(L.O.)/ディナー 18時〜20時(L.O.)
[定休日]
月曜日・第3火曜日
[座席]
20席(テーブル、カウンター、個室)
[URL]
https://laffinage.jp

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