厨房談義[第8回] 外食産業を担う料理人の育成について語る 「技術の研鑽だけでなく、食べ歩きで舌を鍛えることも大事」
学校法人 新宿学園 新宿調理師専門学校
西洋料理 主任教員/志田 由彦 氏
学校法人 織田学園 織田調理師専門学校
副校長/石田 稔 氏
──就職先では、最新の厨房機器を使用しているところもありますが、学校での調理実習の指導はどのようになさっているのですか。 石田 厨房機器は常に進化していますが、最新の機械がなくても調理できるように、火加減を始めオーブンの細かい使い方などを教えています。クラシックなキッチンと近代的なキッチンの両方の使い方を教えているということですね。 ──火加減に関する指導は難しいでしょうね。 志田 火加減を教えるのに最適なのは、デリケートな卵料理です。満足のいくものを作れるようにするには、数多く経験させることが一番です。今の学生は、「どのくらいの温度で何分ですか?」とよく聞いてきてメモをしたがりますが、実際に目で火加減を見たり、耳で焼ける音を聞いたりして感覚的につかんでいくことが必要です。また、どこに就職しても対応できるオールマイティな学生を育てるために、学校ではアルミやステンレス、銅鍋などいろいろな種類の鍋を用意して、磨き方も教えています。 |
──この業界の雇用についてはどのようにお考えでしょうか。 志田 私が残念に思うのは、近年、食育とか食が大切だと世間で言われているわりに、食に携わる人間の社会的地位、報酬、労働時間が改善されていないことです。結婚しようとか子どもを持とうと思った時に、料理人のままでは妻子を養っていけないから、生活のために転職するという話はよく聞きます。女性も労働時間があまりにも長いとか、1人で生活できるだけの給与をもらえないという理由で挫折してしまう。夜中まで働いて給料も安い、というのでは、それも仕方がないことかもしれません。国も食が大事と言うだけでなく、雇用体制を改善していかないと、有能な料理人もサービススタッフも育っていかないと思います。雇用される側も現状を改善するために社会やオーナーに対して声を上げることは必要だと思います。学生の将来を考えた時、こうした雇用問題を無視することはできません。 石田 時代は変わっています。昔のままのやり方では若い人はついてきません。例えば暇な日には「忙しい日が続いているから今日は早く上がれ」といった気遣いが経営者や料理長にあれば、随分違うと思うんですね。決して甘やかしてくれと言っているわけではありません。育てる側も厳しさの中に優しさがないと信頼感は芽生えないですし、若い人が育っていかないと思います。また、料理人という仕事に対する注目度が高まるにつれ、人格の形成が大事で、それも私達の責務でもあると思っています。 (ソトワール2006年7月号を再構成し転載しました) |
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