厨房談義[第9回] 進化するミクニの厨房 「厨房というフレームにとらわれない独自の厨房観」
「オテル・ドゥ・ミクニ」シェフ
三國清三氏
──加減という調整は、火だけでなく料理全般に共通することですね。
三國 素材を選ぶ時、料理をする時も加減を大切にしています。その素材を見極めて、これは出来上がってるからあまりいじらないとか、素材の力が強いか弱いかとか。弱いと思う時は砂糖、塩、こしょうなどを足して加減し、いい形に仕上げます。それらの加減によって料理にニュアンスが出るわけです。それが表現出来たときに、すばらしい料理人であるとかそうでないとか評価される、その評価もまたお客様の加減です。そうしたあらゆる加減によって我々は成立し、微妙な加減の中で存在しています。この加減を理解し、さらにより良く表現できるのには、20年30年かかります。 ──素材本来の持ち味にこだわって料理をなさっていらっしゃいますが。 三國 今、この業界で青いトマトが使われていますが、これを料理に取り入れたのは恐らくぼくが初めてだと思います。数年前、農家の人に青いトマトがほしいといったら、怒られました。とんでもない、と。でもぼくは青いトマトを使って、赤いトマトにないえぐみを表現したかったのです。素材にこだわるというのは、いいものにこだわるというのではなく、この青いトマトが持つ素材本来の味を使って自分が何を表現したいか、にこだわることです。おいしいトマトを出したいなら、完熟の糖度の高いものを出す、それもこだわりだし、真っ青なトマトを使うのもこだわりです。どんな素材を使って、一皿にどう表現したいのかということを常に考えています。 |
──今後厨房はどのような進化を遂げていくのでしょうか?
三國 10年前は何もない厨房を理想としていましたが、これからは、ガス厨房もハイテクの時代を迎えるはずです。でも本来、ぼくはガス厨房全体があまりハイテク化するのは反対なんです。こういう時代ですから多少はしかたないことかもしれませんが、やはり我々は炎を見ながら火加減をして料理をする、その炎が出るのは唯一ガスだけなんですよ。そこをしっかり持っていないといけません。電気には直接鍋に熱を通すという利点がありますが、じっくりゆっくり熱を入れて、素材の香りや風味といったものを引き出していくのはガスの炎の力です。ハイテクにのまれてガス本来の良さを失ってほしくないですね。 |
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