厨房談義[第11回] 炎を自在に操る厨房 「先人達の知恵に学び、作り出すこだわりの味」
分とく山 総料理長
野﨑洋光氏
──料理人として大切なことはどんなことでしょうか。
野﨑 便利になることはすばらしいことだと思いますが、電化によってボタンひとつで何でもできる豊かな時代になり、調理の過程を理解していない料理人が増えることには危機感を感じています。例えば薪を焚いてご飯を炊く、薪を燃やして炭を作る、といった先人達が知恵を出してやってきたことも、便利さだけを追求すると、そのプロセスを見失ってしまいます。 |
──私たちの「食」は、先人に学ぶことが多いですね。 野﨑 私たちの時代は、食事は正座して黙って食べなさい、と言われて育ちました。なぜそう言うのか知っていますか。正座をすると前向きになる、前向きになるとよく噛まないと飲み込めない、よく噛むことで唾液が出て炭水化物の分解酵素のアミラーゼが分泌され消化を助けるからです。日本の食事はしっかり噛ませるような作法になっていて、噛むことで身体の調子を調えるようになっています。実に理にかなっているんですよ。 ──あたり前にある和食のすばらしさを改めて見直すべきですね。 野﨑 私たち日本人ほど食に対して感謝の気持ちを表現してきた民族はいないと思います。例えば、お正月に食べるおせち。食べ物に対する感謝、願望、希望、喜び、子孫繁栄などの願いがこめられています。それが戦後、便利で豊かになってきて、敬意を忘れがちになっています。 |
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