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厨房談義[第11回] 炎を自在に操る厨房 「先人達の知恵に学び、作り出すこだわりの味」

分とく山 総料理長
野﨑洋光氏

Subject3 料理は学び作り出すもの

──料理人として大切なことはどんなことでしょうか。

厨房
清潔に整えられた厨房。

野﨑 便利になることはすばらしいことだと思いますが、電化によってボタンひとつで何でもできる豊かな時代になり、調理の過程を理解していない料理人が増えることには危機感を感じています。例えば薪を焚いてご飯を炊く、薪を燃やして炭を作る、といった先人達が知恵を出してやってきたことも、便利さだけを追求すると、そのプロセスを見失ってしまいます。
山に登る時に、汗をかきながら自分の足で1歩1歩登ると、山頂に着いた時の感動は忘れません。料理も一緒です。店にレシピが山ほどありますが、自分で作って、工夫して、身体の中にしみこませて初めて自分の料理ができてくるのです。

Subject4 「食」を考える

──私たちの「食」は、先人に学ぶことが多いですね。

野﨑洋光氏

野﨑 私たちの時代は、食事は正座して黙って食べなさい、と言われて育ちました。なぜそう言うのか知っていますか。正座をすると前向きになる、前向きになるとよく噛まないと飲み込めない、よく噛むことで唾液が出て炭水化物の分解酵素のアミラーゼが分泌され消化を助けるからです。日本の食事はしっかり噛ませるような作法になっていて、噛むことで身体の調子を調えるようになっています。実に理にかなっているんですよ。
また、ご飯、みそ汁、焼き魚、豆腐、しらすおろし、わかめの酢の物といった日本人が昔から食べてきた炭水化物がメインの和食は、すぐにエネルギー源になって長時間働くことができる効率のいい食事です。太るからご飯を食べない、という人がいますが、そんなバカなと思いますね。何百年という時間をかけて日本人が食べてきた食事は、体験的にも身体にいいということがわかっているんです。
大豆がいいココアがいいとか、健康維持のためにサプリメントを飲む前に、先人達が噛みしめてきた味を見直して、長く健康に生きるために賢く食べることが大切だと思います。

──あたり前にある和食のすばらしさを改めて見直すべきですね。

野﨑 私たち日本人ほど食に対して感謝の気持ちを表現してきた民族はいないと思います。例えば、お正月に食べるおせち。食べ物に対する感謝、願望、希望、喜び、子孫繁栄などの願いがこめられています。それが戦後、便利で豊かになってきて、敬意を忘れがちになっています。
お腹いっぱい食べれば良い、便利さだけを追求すればいいではなく、先人達の知恵に学び、日本の文化を見つめ直し、食べることの大切さを考えていかなければと思います。

分とく山
コンクリートのブロックを重ねた塀に、オブジェが印象的。
分とく山
[所在地] 〒106-0047
東京都港区南麻布5-1-5
[TEL] 03-5789-3838
[営業時間] 17時~21時
[定休日] 日曜日
おまかせコース15,000円

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