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厨房談義[第17回] 食行動の変化にもつながる「栄養計算」の大切さ 「小さな発見を記録し続けた“マイデータブック”。今ではなくてはならない存在に。」

栄養士
亀石早智子 先生

Subject3 大切な「マイデータブック」の存在

──栄養計算を実践するうえでの難しさは何でしょうか。

亀石早智子 先生

亀石

栄養計算を行うのが難しい料理の一つに煮物があります。その理由は、調味料、火加減、素材の切り方、さらには鍋の大きさなど計算要因が多いうえに、食品成分表に載っている調理後のデータも煮込み料理には活用しにくいからです。
また、ピクルス、漬物、みそ漬けなど、時間の経過とともに味が濃くなる料理にも同様のことが言えます。マニュアル化が難しいことに加えて、廃棄率の出し方は人それぞれ違うなど、栄養士のやり方如何でデータ結果が変化する実情もあり、「栄養士が10人いれば10通りの答えが出てきてしまう」ところに栄養計算の難しさがあると感じています。

──確立した計算方法を学ぶ機会の少ない現場の栄養士さんたちに、先生が実践されている栄養計算のノウハウをどのように伝えていらっしゃるのでしょうか。

亀石

私が実践している「マイデータブック」の作成をお勧めしています。栄養計算を行う際、成分表に載っていないものがたくさんあるので、その度に自分で調べるのですが、結果はすべて「マイデータブック」に記録しています。さらに、判らないことがあったときに行う料理の試作でも、「どれくらい汁が残っているか」「塩分はどう変化したか」といったデータを記録しておくのです。
栄養計算が難しい加熱調理も、一つひとつ自分で実際に試作して確かめることでデータを蓄積してきました。日々の小さな積み重ねですが、コツコツ続けてきたことが30年間の蓄積となった今では、「マイデータブック」は、私にとってなくてはならない貴重な存在になっています。また、計算する際にレシピの他に写真を付けてもらうようにしています。完成した料理の写真があると大きさなどが一目瞭然ですから、データの持つ精密度を高めることができるのです。

Subject4 小さな継続は、やがて大きな力に

──最後に、栄養士としてのキャリアを着実に積んできた先生から、後輩にあたる栄養士のみなさんへ、「栄養士の働き方」を含めメッセージをお願いします。

亀石

日々の業務では大変なことがいろいろありますが、それらを乗り越えるには働きやすい環境をつくることも大切だと思います。例えば、厨房環境を整えるうえで大事なのは「動線」です。作業スペースの問題や厨房のレイアウトなど働きにくさを感じているならば、一度リセットして“ムダなく効率よく”を最優先に、動線を見直してみてはどうでしょう。
私の30年を振り返れば、栄養計算を極めたいという理想像があったわけではないんです。それよりも「与えられた仕事や求められることに対し、丁寧に責任を持ってやること」と、「与えられたことだけやるのではなく、プラスアルファを提供すること」を常に心がけてきました。もちろん難しい課題も多々ありましたが、悩みながらも自分なりに苦心して乗り越えた結果、工夫と小さな達成感が蓄積され、それがいつしか「どんな仕事が来ても怖がらない」という自信に繋がったのです。
一方で、結果を出して外部から評価されることにやりがいを感じていました。自分の内部での自信と、外部からの評価。これらの一つひとつは小さくても、積み重ねることで大きな力になるものです。若いうちはどうしても焦りがちですが、今やっていることがいずれは大きな力になることを信じて、現在の仕事に取り組んでみてください。私は今でも「この料理は、どうしたらデータを出せるのだろうか」と悩むことがあれば試作をしてみます。仕事を良くするために労を惜しまないことは、周りのためになるだけでなく、自分の“財産”にもなるのですから。

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