厨房談義[第20回] ガス厨房で実現した、先進的なHACCP導入 「美味しさと衛生管理を両立させるためには、料理人の自発的なHACCPへの取り組みが不可欠です。」
ハイアット リージェンシー 東京
食品衛生マネジャー
坂場一昭 氏
──HACCPの導入を成功させるポイントとは、何でしょうか。
- 坂場
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やはり、自主的に「工程管理」ができる体制を、いかに構築できるかということでしょう。これまでの衛生管理は「結果管理」でした。しかし未然に食品事故を防ぐためには、これでは不十分です。どの工程を、どのように制御するかを、徹底して管理しなくてはなりません。
そのためには、汚染区域・準清潔区域・清潔区域を明確に分けたゾーニングを行い、食品汚染の持ち込みと拡散を防止する必要があります。当ホテルの厨房でも、トラックで到着した食材は、まず地下2階のレシービングデッキで到着時の温度と数量を検品します。そして荷解き室(汚染区域)で段ボールや発砲スチロールから専用容器に移し、外装品は業者が持ち帰ります。さらに準清潔区域である野菜加工室・魚加工室・肉加工室で、必要な下処理を行い、汚染の拡散を防ぐのです。
下処理された食材は、清潔区域であるコールドセクションやクリーンルームに運ばれ、ここで盛り付けなどを行います。加熱料理が必要なものは地下1階の加熱作業エリアに運ばれ、最終調理がなされるのです。
重要なことは、自分たちのメニューを徹底した衛生管理のもとで実現するために、どんな作業フローが必要なのかを考え、それに合ったゾーニングによる厨房設計を行うことです。
- 地下1階の加熱コーナー。強力なガスの火力で、一気に調理する。
- ガスコンロ、中華レンジが設置された厨房内でも、室温はつねに25℃以下に保たれている。
- 5台のスチコンが並列設置されている。庫内の温度や芯温は、右壁面の計測器で一括管理されている。
- ペストリー厨房内。清潔区域に相応しい衛生管理が徹底されている。
──たくさんのガススチコンを使っていらっしゃいますね。
- 坂場
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ガスのスチコンで、何の問題もありません。確かに1999年当時は、スチコンは電気が主流でした。当ホテルの厨房改修にあたっては、電気・ガス・地熱という従来の多様な熱源を活用しようという方針があり、電気容量の問題もあって、スチコンもガスを選択しました。
その際、厨房機器メーカーさんにも多大な協力をしていただきました。スチコン内の鋼板を厚くし、内部の角にR加工を施し、さらに温度管理システムも新たに実装しました。今ではそれがガススチコンの標準になっています。輻射熱を心配する人もいますが、現在のガススチコンは密閉性も完璧で、まったく問題はありません。
──最後に、これからHACCPを導入される方々へのアドバイスをお願いします。
- 坂場
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まず、自分たちのメニューを、十分に理解することです。それを従来のやり方ではなく、新しいHACCPの衛生管理の考え方に則った作業フローにどう落とし込むか。それがポイントだと思います。
HACCPを導入すると、メニューが限定されるという人がいますが、それはありえません。HACCPは何かを制約するシステムではないからです。提供する料理の衛生管理を徹底しながら、自分たちのメニューを実現するためにはどうすればよいのかを、料理人自ら考えるのがHACCPなのです。
日本の料理人は、多彩な調理技術を持っています。しかし衛生管理の重要性を理解している人は少ないようにも感じます。これからは「美味しくて安全」な料理を、いかにお客様に提供するか。それが料理人にとっての重要な使命になってくると考えています。
- 緑は「準清潔区域」、青は「清潔区域」。入り口のパネルで明確に表示されている。
- 清潔区域のチルド室。作業用手袋も、自然界には存在しない青色で、異物混入を防止している。
- 二つのセンサーにより、室内の温度と湿度を自動計測し、集中管理センターで一括管理する。
- クリーンルームダスター。エアシャワーにより、ホコリなどが室内に入らないようにしている。