1. 最適厨房ホーム
  2. 厨房談義トップ
  3. 厨房談義[第21回]

厨房談義[第21回] 学校給食における食中毒の予防策 「食中毒を抑えるためには、発生原因を理解し、ソフト・ハード両面の対策が不可欠です。」

東京医科大学兼任教授(医学博士)
特定非営利活動法人 栄養衛生相談室 理事長
中村明子 氏

Subject3 食器洗浄、手洗い、石けん、手袋・・・ 衛生管理の意味を理解した対策を

──厨房機器の洗浄や、手洗いにも、食中毒を防止するコツがあるそうですね。

中村

数年前に、泡立て器の消毒が不十分だったために、サルモネラによる食中毒が発生しました。このケースでは、泡立て器を食器洗浄機で洗い、紫外線殺菌による消毒を行っていました。しかしこの方法では、紫外線が当たらない裏側の細菌は残っており、ドレッシングなど加熱をしない調理に使って食中毒を引き起こしたのです。本来は、熱風消毒保管庫での消毒が必要だったのですが、消毒した「つもり」になっていたため事故が起きてしまいました。

こうした事態を防ぐために調理機器を新しく購入する場合には、分解して洗浄できるタイプのものを選択すべきです。文部科学省の「学校給食衛生管理基準」でも、そう明記しています。それが難しい場合には、分解洗浄できない調理機器は加熱調理にしか使わないという運用が必要なのです。

手洗いについても留意が必要です。手洗いをしすぎて手荒れになると、手にウイルスや細菌が残ってしまいます。従って文部科学省の「学校給食調理場における手洗いマニュアル」では、手洗いを「標準的手洗い」と「作業中の手洗い」の2つに分け、手荒れにならない手洗いを勧めています。標準的手洗いは、トイレから出た後や汚染区域から非汚染区域に移動する時に行う。しかし調理場の作業に入った後の作業中の手洗いは、爪ブラシは使わず、またあまり頻繁に手洗いをしてはいけない。メリハリのある対応が重要なのです。

手洗いの石けんも、固形ではなく液体タイプのものを使っていただきたい。固形石けんは付着した細菌が増殖する危険性があるからです。手を拭く時には、自分のハンカチやタオルではなく、ペーパータオルを使って水分をよく拭き取ってください。手に水分が残ったままアルコール消毒をしても、その濃度が薄まってしまい意味がありません。

また手袋についても、下処理などこれから加熱するものに対しては使う必要はありません。それは無駄です。手袋は、自分の手を守るためか、食材を汚染させないためなのか。その目的を考えて使い分けをすることが重要なのです。調理作業は科学であり、それをしっかりと理解して自発的に衛生管理の対策を考えることが大切だと思います。

Subject4 厨房機器などハード面の改善に現場の声を積極的に活かす

──食中毒の防止には、厨房機器というハードの視点も必要だとうかがっています。

緑は「準清潔区域」、青は「清潔区域」
回転釜も「涼厨」シリーズの登場で、触っても熱くなく、室温も下がるなど、厨房環境が大きく改善されました。(中村氏)
中村

そのとおりです。従来は、ゾーニングの運用や手洗いの徹底など、調理作業のソフト面を中心に指導してきました。しかし調理作業の中でできることには限界があり、また世代交代のなかでソフト面の継承はなかなか難しい。厨房設計や厨房機器というハード面を変えることが、食中毒の予防に貢献する時代になっているのです。

最近では「涼厨」などの先進的な厨房機器が浸透し、厨房環境は大きく改善されました。水蒸気の集中排気などの技術によって厨房内の室温が格段に低くなったことで、作業環境は快適になり、食中毒の予防にも役だっています。

厨房のハード面を改善する際にとても重要なことは、栄養士や調理師など、学校給食の現場で調理に携わる皆さんが、積極的に意見と要求を出すことです。そして、子どもたちの食の安全を守るためにはこういう厨房設備が必要なんだということを、論理的に訴えることです。

汚染区域と非汚染区域のゾーニングや、作業動線や作業工程表を作成する場合でも、実際に調理作業をする方々が参加することできめ細かな設計ができます。メニューや調理手順が分かっていてはじめて、厨房機器の大きさ、冷蔵庫の位置、台車の流れなどを的確に指定できるのです。

学校給食は、お弁当業者とは違って、メニューが多彩です。それだけに衛生管理を徹底するためのハードルは高くなります。しかし衛生管理に配慮するあまり、給食が美味しくなくなっては本末転倒です。そこで私たちは、大量調理のなかで、衛生管理と美味しさを両立させるマニュアルを作成しました。

栄養士や調理師の皆さんは、非常に熱心に勉強してくださっています。新しい時代に何が必要なのか。食中毒の防止と美味しい給食の両方を実現するためには、どうしたらよいのか。それを現場の皆さんが積極的に考えるようになっています。これからも私は、栄養士・調理師の皆さんを応援し続けていきます。

厨房談義トップへ戻る