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オピニオンリーダーが語る
厨房談義 第24回

料理人と厨房設計者の絆が生んだ“こだわりの厨房”

作業効率を高め、新しい料理を創り出す厨房には、
料理人と厨房設計者の信頼関係が不可欠です。

株式会社なだ万 商品開発室 室長 加藤道久 氏
NRTシステム株式会社 代表取締役 畑 治 氏

Subject 2 先を読み、料理人の育成を考えた
新商品開発室のテストキッチン

──では次に、2013年に完成した「商品開発室テストキッチン」について教えてください。

加藤

なだ万はもともと純粋な和食をご提供してきました。先輩の料理人・中村孝明が“料理の鉄人”としてテレビに出演したり、「なだ万厨房」で弁当・惣菜の販売を始めたことで、和食にプラスαを期待されるようになりました。「和」を中心としつつ、そこに洋食や中華などのグローバルなフレーバーを加えることで、新しい料理を生み出そうとしたわけです。

料理を作りながら、何を加えたらどんな味になるのか、先味・中味・後味はどうかを確かめ、一品ずつ開発してきました。

商品開発室のテストキッチンは、8席のカウンターを設けており、テストキッチンで開発した商品をシェフが試食したり、お客様に提供して反応を確認したりするテストマーケティングの場として活用しています。

ここで開発されたメニューは、各店舗やなだ万厨房のメニューとして、数多く採用されてきました。

テストキッチンから生まれた新商品
配色や盛り付けにも、細心の気配りが。写真を撮るお客様が増えたこともふまえ、着席したお客様の目線(斜め45度)で料理がもっとも美しくなるよう、立体的な盛り付けとなっています。

このテストキッチンにも、加藤さんの思いとこだわりがたくさん詰まっています。例えば、スチコンとブラストチラーは新商品開発を行う際の必須機器ですが、メーカーのショールームに通いつめて新しく選定したものです。またホットパックは、加熱調理後の食材を冷却する工程が不要なため大幅な時間短縮を可能にした真空パックで、これも商品開発には不可欠なアイテムですが、予算の制約から電気設備だけ準備して後に購入してもらいました。

同様に、食器洗浄機も後から追加できるよう、給排水と電気設備だけ準備しましたが、これについては加藤さんの話に“目から鱗がおちる”体験をしました。

当初は調理器具洗浄機も提案したのですが、加藤さんは「それは要らない。でも食器洗浄機はぜひ欲しい」と言うのです。その理由を尋ねると、加藤さんは「鍋やフライパンを洗うのは修行の一環だが、お客様の食器を洗わせるのは料理人としてしのびない……」。加藤さんの料理人を見る暖かい目線に感動しました。

予算やスペースの制約ですぐに全部を実現することは難しいけれど、先を読み、料理人の育成も考えて、厨房を構想する加藤さんの姿勢は素晴らしいと思います。

なだ万新商品開発室テストキッチンのゾーニング

Subject 3 厨房の作業効率を高め、
作業環境を改善できる厨房機器の選定が重要に

──今後の厨房に求められる要件とは、何でしょうか?

加藤

昔とは違って、今では厨房スタッフの労働時間管理を徹底するようになりました。修行のうちは1時間早く来い、というわけにはいかなくなったのです。ですから、少人数で決められた時間の中で一定の作業量をこなすことが重要になっています。

厨房機器の選定にも、このことが大きく影響します。スチコンとブラストチラー、ホットパックなどは、厨房の作業効率を向上させる必須アイテムです。最新の厨房機器を使って温度設定や保存方法を工夫し、毎日行うべき作業と、1週間分をまとめて行う作業を切り分けることで、厨房の生産性を上げる必要があります。このことを厨房設計者と料理人が理解し、話し合いをすることで、最適な厨房が出来上がるのだと思います。

そのとおりですね。いま飲食業はどこでも人手不足です。厨房の作業効率を上げることは、過度な残業をなくしてスタッフの定着にもつながります。また「涼厨」機器を導入するなど、作業環境を改善することも重要だと思います。

もう一つ、別の視点から、私は和食のスタンダードを料理人が積極的に世界に向けて発信することが急務だと考えています。

イギリスでは、お寿司のシャリの温度がHACCPの観点から4℃と決められています。このままでは、それが日本の寿司だと誤解されてしまう。発酵食品についても同じことが言えます。インバウンドのお客様も増えるなかで、料理人が世界に向けて正しい和食のあり方をぜひ発信していただきたい。加藤さんにはそれも期待しています。

※この記事は、2016年5月30日に開催された「厨房設計セミナー」をもとに、編集部が作成しました。

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