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オピニオンリーダーが語る
厨房談義 第27回

「ココロのバリアフリー計画」
応援店 対談
─株式会社エムファクトリー 様

経営者が障がい者支援を率先すれば、
スタッフも自発的に取り組むようになります。

株式会社エムファクトリー 代表取締役社長 長谷川 勉 氏
NPO法人ココロのバリアフリー計画 理事長 池田君江 氏

(聞き手:一般社団法人日本フードビジネスコンサルタント協会 理事長 竹谷俊宏氏)

「NPO法人ココロのバリアフリー計画」様は、障がい者も健常者も居心地良く安心して 過ごせる環境を目指して活動を行っています。この取り組みを早くから応援し てきたのが、株式会社エムファクトリー様です。

同社は「新鮮なもつ焼き大衆酒場」をコンセプトに、百数十店鋪を展開しています。「新宿ホルモン」「ホルモン横町」は連日満席の人気で、さらに9坪で月商1200万円を計上する「日本再生酒場」など、数々の繁盛店を世に送り出しています。

同社の長谷川社長は、実は25年前から障がい者支援の活動を続けてきました。その経験から、店鋪施設の改修よりも、障がい者を歓迎する店側の気持ちが大切だと強調されています。

長谷川社長が考える「障がい者を歓迎する店づくり」とは何か。スタッフ教育はどのように行っているのか。NPO法人ココロのバリアフリー計画の池田理事長と対談していただきました。

Subject 1 身障者向けのディスコパーティー開催が障がい者支援を始めるきっかけに。

PROFILE

長谷川 勉/千葉県出身。1989年、米国ウェストバージニア州の「セーラムインターナショナル」大学にテニス留学する。1994年同大学ビジネスマネジメント科卒業後、2年間のサラリーマン生活の時、「い志井グループ」代表・石井宏治氏と出会い、1997年に入社。「新宿ホルモン」「日本再生酒場」など、新業態立ち上げに関わる。現在は株式会社エムファクトリーの社長。100名超の正社員・パート社員の先頭に立っている。

──長谷川社長は25年前から、障がい者支援の活動に取り組まれてきたとお聞きしています。そのきっかけを教えてください。

長谷川

当社(い志井グループ)は来年、おかげさまで設立65周年を迎えますが、25年前には調布でディスコ店を営業していました。たまたま障がい者の方々から「身障者のディスコパーティー」を開いてほしいというご要望があり、実行しました。その後も多くの障がい者の方と一緒に、ランチ会や様々なイベントを開催してきましたのです。

池田

長谷川社長にはともてお世話になり、感謝しています。約5年前にお会いする機会をいただき、当NPO法人の趣旨に賛同してすぐに行動に移していただけて、ほんとうに嬉しかったです。

長谷川

25年前の時も、車椅子や身障者の方々が楽しんでいただけるように、テーブルの高さやトイレの大きさに至るまで、スタッフと一緒に配慮しサポートした記憶があります。まさにそれは、池田さんが言われる「ココロのバリアフリー」だったのだと当時を思い出します。

池田

そのとおりですね。多くの飲食店経営者は、バリアフリーという言葉を聞いただけで拒否反応を示すことも多いのですが、私たちがお願いしているのは、目に見えない拒否や面倒臭さなどの「ココロのバリア・偏見」を取り除いてほしいということです。店鋪施設の改善・改修よりも、障がい者を気持よく受け入れていただき、健常者同様に楽しみを与えてほしい、という願いなのです。

Subject 2 飲食店のホスピタリティーは、形だけでは本当の「おもてなし」にはならない。

PROFILE

池田君江/NPO法人ココロのバリアフリー計画 理事長。2007年に起きた渋谷の温泉施設爆破事故で脊髄を損傷、車椅子生活になる。ある時、近所の「串カツ田中」で体験した心ある接客が、活動を始めるきっかけに。NPO法人を設立し「ココロのバリアフリー計画」を応援するお店を募っている。「ココロあるお店には、ココロあるお客さんが集まる」と語る。

──飲食店には、様々なテナント施設の条件で、障がい者に配慮できない場合もあると思いますが、どのように解決しているのでしょうか。

長谷川

当社の店鋪でも、正直なところ、車椅子で入店しにくいお店はあります。ただそういう場合でも、施設改修などの対応よりも、店鋪スタッフの手でサポートしようという思想を全員が持てるように伝えています。もちろん具体的な店鋪設計の段階では、できるだけ車椅子が入れる広さを確保したり、手すりを付けるなど、少しでも配慮ができるように努力しています。

池田

そうですね。例えば行きたい飲食店に電話で予約しようとしても、「お店が身障者用になっていない」「スタッフが対応できない」など、腫れ物に触るように断られることもよくあります。でも長谷川社長のお店は、どこでもその場の状況に合わせてテーブルの高さを調整して(ビールケースを一つ抜いて)くださいます。ちょっとしたことなのですが、とてもフレンドリーで素敵だと思います。

長谷川

障がい者の方々を支援したいという強い思いがあれば、店鋪施設の環境が悪くてもスタッフのサポートによって、いくらでも障がい者を受け入れることができると思います。それは店側の気持の問題です。同じ人間として、歓迎する心は必ず通じると信じています。

池田

飲食店にはホスピタリティーが必要だと言われていますが、形だけで心がこもっていなければ本来の「おもてなし」はできないと思います。健常者と障がい者の区別なく、お店で楽しんでいただく気持ちが良い飲食店の基本であり、重要なサービスの一つとして「誰に対しても優しい心」を持っていてほしいと願っています。

Subject 3 人手不足の解決には「人が人を集める」組織風土の醸成がもっとも有効。

──「ココロのバリアフリー」を実現するために、スタッフへの教育はどのようにされていますか。

長谷川

特別なことはしていません。ただ私も、当社の石井会長も、障がい者支援を率先して行っていますので、その姿を見たスタッフも自発的に取り組むようになりました。経営者の行動を見て、それが良いことだと思える気持があれば、自然と行動に現れるものだと思っています。

──いま外食産業には「人手不足」という共通の課題がありますが、長谷川社長はどんな対策をとっていますか。

長谷川

当社の場合、お客様が店長を見て「あの人のようになりたい」「一緒に仕事をしたい」という思いから応募してくださることが多いのです。大学のクラブの先輩から「あの店、いいよ」という評判が後輩に伝わることも多く、まさに人が人を集めてくれている状況です。募集をかけなくても応募があり、とてもありがたいことだと思っています。

──東京ガスに対して、何かご要望はありますか?

長谷川

業務用のガス機器については、何の問題もなく、非常に良いと思います。しいていえば、給湯器の排気フード等の設備基準や、客席・厨房面積・給湯箇所の数に対応した給湯器選択表などを、より分かりやすくして欲しい、というくらいでしょうか。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックで、多くの外国人や障がい者の方が来日されます。「ココロのバリアフリー計画」の応援店は今、約1,000店以上ありますが、これを機に東京ガスさんにも「ココロのバリアフリー計画」の情報発信に力を入れていただきたいと願っています。

池田

ありがとうございます。応援店の方が、横のつながりでさらに応援店を紹介していただけるのが一番良い方法だと思っています。私たちもより多くの方々に情報発信をし続けて、参加していただけるよう頑張ります。

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