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オピニオンリーダーが語る
厨房談義 第31回

“個の尊重”を起点に好循環を生み出す

経営理念を社員一人ひとりに浸透し、人財力を引き出すことが、
業態開発力など事業経営の競争力につながっています。

株式会社物語コーポレーション 代表取締役社長CEO
加治幸夫 氏

PROFILE

1956年生まれ、東京都出身。複数の外食企業を経て、88年に(株)グリーンハウスへ入社、「謝朋殿」営業部部長、執行役員などを歴任。2011年4月に(株)物語コーポレーションへ入社し、同年9月に代表取締役COO、16年1月に代表取締役CEOに就任。

株式会社物語コーポレーション/会社概要

創業
1949年12月
設立
1969年9月
代表者
代表取締役CEO 加治幸夫
資本金
7億1,113万円(2018年6月30日現在)
売上高
21億円(2018年6月期)
※グループ売上高 約793億円(2018年6月30日現在)
従業員数
社員1,068名
※国内時間制従業員12,827名(2018年6月30日現在)
店鋪数
国内:471店舗(直営263店舗/FC208店舗)
海外:18店舗
(2018年12月31日現在)
事業内容
外食事業(焼肉、ラーメン及びお好み焼レストランチェーン、和食店)の直営による経営とフランチャイズチェーン展開
URL
https://www.monogatari.co.jp

人財力と業態開発力を武器に、全国で一大外食チェーンを展開する株式会社物語コーポレーション。テーブルオーダーバイキング焼肉店「焼肉きんぐ」や、郊外型ラーメン店「丸源ラーメン」、寿司・しゃぶしゃぶ食べ放題和食店「ゆず庵」をはじめとした12業態を運営し、2018年6月期のFC店を含めた売上高は793億円と、競合が激化する外食業界で高い業績を上げています。

同社の強みは、卓越した業態開発力に加え、人財の力を引き出す独自の教育システムにあります。それを象徴するのが「Smile & Sexy」という経営理念と、理念を具現化した冊子「物語レシピ」の存在です。「個人の尊厳を組織の尊厳の上位に置く」という経営理念から、スタッフ全員がお客さまと向き合い、店鋪の改善提案を自発的に行なう企業風土が生まれています。

“個の尊重”を起点に好循環を生み出す経営とは? 加治社長に詳しく伺いました。

Subject 1 経営理念「Smile & Sexy」がすべての原点、その理念を明文化した「物語レシピ」を全員で共有。

──物語コーポレーションの「Smile & Sexy」という企業理念について、教えてください。

加治

経営理念「Smile & Sexy」が示す人物像は、Smile「笑顔と元気で正々堂々」、Sexy「個対個に生き、自分の物語を個性豊かに語れる人」です。自分で意思決定しながら行動することで、「自分物語」を歩むことができる社員に育ってほしいという想いが込められています。

実際に当社のスタッフは、お客さまと常に向き合い、改善のために不断の努力をしています。個人の豊かな「自分物語」が前提にあってこそ、業態開発力が上がり、魅力ある会社物語が誕生するのです。

社員一人ひとりの決意表明(自分物語)が記載された壁面ボードの前で「物語レシピ」を手にする加治幸夫社長。

──その「Smile & Sexy」という企業理念を具現化したのが、加治社長が考案された「物語レシピ」なのですね。

加治

その通りです。集まった個の思いの強さが、そのまま企業成長の原動力になってきた。その原点は常に「Smile & Sexy」にありました。しかし、社員数が1,000人を超えるまでに組織が大きくなった今、その理念を仕組み化する必要があると考えたのです。

そこで経営理念を明文化した冊子「物語レシピ」を作成しました。そこには、創業精神や社名の由来、「Smile & Sexy」の定義や重要な経営目標など、社員一人ひとりに共有すべき内容が書かれています。

Subject 2 “個の尊重”という経営理念が、会社の拡大成長につながるという事実。

──「個人の尊厳を組織の尊厳の上位に置く」という理念は、会社の成長にどのようにつながっているのでしょうか。

加治

当社の原点は「自立した個」。組織の前にまず個人があり、その個人が自らをさらけ出し、意思決定することを重視しています。

私は、飲食業というビジネスには、免れない与件が3つあると考えています。

まず一つ目は「一度出店したら店鋪は動かせないし、競合も現れる」ということです。どこでも販売できる一般商品と違い、飲食店は商圏内の住人や働く人に、リピーターになっていただく必要があります。そのためには、新たな商品を開発し、店舗運営も改善していくことが求められる。その開発や改善には、店の現場でお客さまと真正面から向き合っている個の力が極めて重要になるのです。

二つ目は「誰でも参入できる」ことです。例えば、駅前に10坪程度のラーメン屋を開こうと思ったら、数百万円あれば出来てしまいます。だから当社は、資本力を活かして、新規参入が難しい郊外の大型店に取り組みました。しかし競合に勝つためには、それだけではダメで、看板商品がなければ埋もれてしまいます。つまり、立地・店舗・商品開発力が常に問われており、それらはすべて個の力に依存します。個の力を組織の力に組み上げて初めて、激しい業態間競争に勝てるのです。

三つ目は「人で価値が変わる」ことです。飲食業は“ピープルビジネス”と言われ、まさに人財力が最大の武器なのです。例えば同じラーメンでも「熱いから気をつけてください」と笑顔で言われれば、味が変わります。ここでもオペレーションを担い、お客さまの声を直に聞いている個の力が非常に大切になる。個の力を信じれば、一人ひとりが付加価値の高い仕事ができるようになります。逆に、本部統制型・マニュアル主導型のチェーン店の弱点は、そこにあるわけです。

充実した教育システムで人財力の開発を目指す。社員が働きがいや成長を感じられる環境も、離職率の低さに繋がる。

──-“個の尊重”という理念を、実際の事業運営に落とし込むのは非常に難しいことのようにも思いますが、いかがでしょうか。

加治

確かに飲食業の常識では、会社の成長とお客さまの満足、そして社員の幸福という3つは、なかなかイコールにはなりません。しかしたくさんの外食ビジネスを経験してきた自分から見て、物語コーポレーションならば、それが実現できると思いました。

もちろん、極めて挑戦的な難しい目標です。美しい理想が現実で成立するかという、大きな実験でもあります。「物語レシピ」のなかで、「Smile & Sexy」を体現した「物語人」を、「笑顔と元気で正々堂々、個対個に生き、自分の物語を個性豊かに語れる人」と定義していますが、この一文を明文化するために半年間のプロジェクトを組み、役員会で議論を重ねました。

「自分物語こそが、会社物語を作る」は小林会長の言葉ですが、現在の当社はまさにこの言葉どおりに運営されています。社員は、個人の尊厳や成長を大切にするという運営方針に安心感を持っています。また社員同士の自分物語の語り合いの中で、自己成長を実感しています。当社の離職率が10%台と業界平均に比べて極端に低いのも、こうした組織風土によるものだと考えています。

Subject 3 個を尊重する教育・コミュニケーション機会を組織のいたるところに張り巡らせる。

──個を活かすための、より具体的な取り組みを教えていただけますか。

加治

とえば入社式は“日本一長い入社式”としてメディアで紹介されたこともあり、6時間以上かけて行います。私が150人の新入社員一人ひとりに、文面が異なる入社激励書を読み上げ、手渡しているからです。

事前に綿密な情報収集をして、一人ひとりに一番合った激励書を書き上げます。会社と新入社員の個対個の関わりが、そこに表現されています。だから真剣に読み上げる。“個の尊重”と言いながら、名前を読み上げて以下同文では、理念ではない。

異なるメッセージが書かれた入社激励書は、毎年加治社長が1枚1枚読み上げ、全員に手渡す。入社時から一人ひとりが個人として認められている証。

また以前、インドネシア出身の新入社員が入社式の服装について尋ねると、日本の正装で出席するよう言われたそうです。入社式の後でその新入社員は「私は日本が大好きで、物語コーポレーションに入社できてとても嬉しい。でも日本人になったわけではないので、入社式にはインドネシアの正装で出たかった」ともらしたようです。そこで、ハッと気付かされたのです。彼の言っていることは“個の尊厳”そのものではないか、と。翌年の入社式から、全員が自国の正装で出席できるようになりました。

日本と異なる文化を持つ外国人を積極的に採用。入社式はの服装は本人の意思を尊重し、自国の正装での出席を可としている。

──独自の人材育成システムでも、特色のある仕組みを導入されているとお聞きしました。

加治

はい。たとえば、多くの社員が心の拠りどころとして「バースデーメール」を挙げます。これは誕生日を迎えた社員にお祝いメールを送るのではなく、逆に自ら全社員に向けて「過去の自分、現在の自分、未来の自分」を自己開示し、仲間に明言する仕組みです。そうすると、本人を知る人からたくさんのお祝い返信メールが飛び交います。他の社員や、私からの返信は、会社が自分の存在を認め、気にかけていることを実感する機会にもなっています。

「個人の尊厳を組織の尊厳の上位に置く」という理念のもとでは、社員は誰に対しても自分のことを包み隠さず語れる自己開示力を持つことが求められます。自分の考えを言語化する能力は、業態開発や商品開発を生命線とする物語コーポレーションにとって、必要不可欠なものなのです。

当社では個を育成するための施策を、縦横無尽に張り巡らせています。人財採用を担う人財開発部、労務管理やダイバーシティを担当する人財応援部、店長育成プログラムや資格認定を実施する人財教育のコア機関「物語アカデミー」に加えて、各営業部でもOJTと並行して教育の進捗状況や研修レポートなどを部全体で共有しています。

こうした個を取り囲む非常に多くの教育やコミュニケーション機会によって、個を放っておかない、社員同士がかまい合う、そして人財力を引き出す組織風土が実現しているのです。

社員一人ひとりが自分を表現し、意思決定することを大切にする。個性豊かな「自分物語」が集まり、魅力ある「会社物語」を創る。

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