JoyWatcherSuiteの導入によりデータ収集の自動化を実現
集められたより細かなデータを元に更なる省エネを推進
「農業生物資源研究所では、電気エネルギーの安定供給と保守性を高めるために、電力施設の分散化を行った。これまで直列だったものが並列になった、と考えるとイメージしやすいだろう。直列の場合、接続されている施設のどこかでトラブルが発生すると、そのトラブルが発生した施設以降のすべてに電力供給が遮断されてしまう。さらに悪いことに、このような仕組みでは、トラブルの原因が、何なのかを究明するのに時間が掛かるのである。電力が遮断された施設にトラブルが発見されればいいのだが、トラブルの原因が、電力を遮断した施設の後につながっている、別の施設の可能性もある。1つの電力ラインに5つの施設がつながっているケースでは、一番後の施設でトラブルが発生してその施設だけが電力が止まるのであれば原因の究明は比較的短時間で行えるが、一番先頭の施設で電力が遮断された場合、連なるすべての施設を1つひとつ確認しないとトラブルの要因をつかむことは難しくなる。
これに対して、並列で接続されていれば、トラブルが発生した施設だけが電力供給をカットされることになり、トラブル要因の特定も短時間で行えるし、他の施設への影響もほとんどない。
施設拡大に伴い、電力供給システムの変更は農業生物資源研究所施設を管理するセクションにとって、大きな課題をもたらすことになったのである。安定供給だけでなく、効率的な電力活用も同時に求められることになる。それは、独立行政法人ということもあり、CO2排出には民間企業以上に配慮が求められるからだ。
しかし、研究者の要望、安定した電力供給と、省エネとはある部分、相反する問題を含んでいる。独立行政法人 農業生物資源研究所施設専門監の酒谷秀俊氏は、新しい仕組みに求めたものを次のように語る。
「かなり前から電力エネルギーの安定供給の仕組みについては考えていました。分散化と二重化ですね。研究者は実験、研究に必要な電力は十分確保したい、しかし施設を担当するセクションとしては、省エネ推進を行いたい。この一見矛盾する問題解決の第一歩として変電設備の変更を行いました。そして、この変電設備の変更に伴って、監視システムを導入しました。この監視システム導入の最大の目的は、どこで、どのくらいの電力が使われているのか、できるだけ正確に把握するためです。正確な利用状況の把握がなければ、問題点を明らかにすることもできませんし、省エネをどのように実施すれば一番効果的なのかといった判断もできません」。
電力供給システムが新しくなる前は、毎朝、研究所内を担当者が回って、電力メータを確認していた。1日の使用量をアナログメータで確認し、メモを取り、監視センターで集計という作業を繰り返していたのである。
「以前は、必ず積算計を毎朝見に行くという作業を行っていました。定時確認だけでなく、問題が発生したときも、まず現場に走り、そこで1つひとつを確認するという作業が必須でした。しかし、新しいシステムが導入されて大きく変わったのが、この定時確認作業がなくなったことです。この監視センターで、すべての施設がどのように電力を使っているのか、一目で分かります。それも、単に積算だけでなく、今現在どのようになっているのかが分かるのです」(酒谷氏)。
農業生物資源研究所では、施設管理の実務は外部に委託しているが、監督として日常の管理業務を担当されている村田隆男氏は、酒谷氏の言葉を引き継いで次のように語る。
「一番驚いたのが、この部屋ですべての状況が把握できるということです。電力の安定供給を目標に、変電設備の追加、変更を行いました。もちろん、以前の変電設備も使っています。面白いことに、古い設備と、新しい設備には一目で分かる違いがあるのです。設備があたらしいということではなく、電力盤にアナログメータが付いているか付いていないかという違いです。古い変電設備には積算の電力メータが付いているのですが、新しい設備には何も付いていません。大きな箱が並んでいるだけ、といった印象ですね。JoyWatcherSuiteが導入されるまでは、毎朝この電力メータを確認していたのですが、その必要がなくなりました。それだけでなく、現在1,000ポイント以上の測定ポイントを設けてありますが、アナログ時代には1,000ポイントもチェックするなどというのは不可能でした。細かなエネルギー需要の動きを把握できると思います」(村田氏)。
農業生物資源研究所のように、生き物を研究対象としている施設では、足の長い研究が行われている。1ヵ月、2ヵ月といった短い時間ではなく、数年にわたる研究もある。エネルギー供給も長期間にわたって安定したものでなければならない。
1回の停電が、数年にわたる研究のすべてを台無しにしてしまう可能性があるのだ。それだけに施設を担当するセクションには大きな責任が掛かってくる。研究者の多くは、どうしても自らの研究、あるいは、グループの研究という、非常に先鋭的な部分にのみ目がいってしまいがちだ。また、そうでなければ先進的な研究は難しい。しかし、このような研究者が集まっている施設を管理する側は、常に全体を見渡していないとならない。農業生物資源研究所の電力の大半はフリーザー(冷凍庫)や、恒温庫といった温度に関する装置が中心となる。大型の施設であれば酒谷氏のセクションにも情報が流れてくるが、ここの研究で必要とされるフリーザーなどは、それぞれのセクションで単独購入されることがあり、全体を正確につかむことは難しいといった状況がある。
「フリーザーやクーラーなど、気がついたら導入されていた、といったこともあります。1つひとつはそれほど大きな電力を消費するものではありませんが、それでも、台数が増えれば、大きな問題となります。研究者の方1人ひとりにお話しすると、理解はしてくださるのですが、これ一台ぐらい大丈夫だろう、問題ないだろう、という認識になるようです。確かに、研究に必要だから−80度まで対応のフリーザーを−150度まで対応に変更するというのは、研究者にとって当然のことだとは思います。しかし、全員がこのように、より電力を消費する機器をどんどん導入していったら、安定した電力供給も難しくなってしまいます」と酒谷氏。
このような状況から抜けだし、過不足なく安定して電気エネルギーを供給するためにも、正確な状況把握が急務と酒谷氏は考えたのである。「まずは正確な現状把握です。現状がどうなっているのか分からない状態で、効率的なエネルギー活用の提案もできませんしね。今回変電設備の新規導入に関しても、かなり調べました。変圧器は変換効率の違いで価格も変わってくるのですが、新しい変圧器に関しては、導入コストは少し高くなるのですが、変換効率の高い、変換ロスの少ない機器を導入しました。まず、入り口を固め、それから次の利用効率の調査、ということになります」(酒谷氏)。
酒谷氏の目標は、現在の半分に電力消費を抑えるというものである。例えば、フリーザー。現在は研究室ごとに小型のフリーザーが用意されている。しかし、酒谷氏は、このフリーザーを1つの大型フリーザーに変更したらかなりの電力消費に違いが出ると考えているのである。家庭用の冷蔵庫を見ても分かるように、容積が倍になっても、消費電力は倍にはならない。
電力消費を考えれば確かに効果的ではあるが、研究者の立場に立つと、手元に置いてあった素材をわざわざ別の所に取りに行かなければならないという問題が出てくる。折り合いをどこで付けるのかはかなり大変な問題と思われる。しかし、このようなことを実現するためにも、細かなデータの収集は必須と酒谷氏は語る。
「現在収集しているデータの分析はこれからです。しかし、今まで不可能だったデータ収集がJoyWatcherSuiteの導入によって実現されてます。そして、この集められた情報を分析することで、省エネを効率的に行う方法が見いだせるのではないかと考えているのです。例えば、部屋の蛍光灯です。不在のときは消灯、という当たり前のことになっています。しかし、1日1〜2回の出入りであれば、省エネになるかもしれませんが、10分おきにつけたり消したりを繰り返すようなケースではどうなのでしょうか。蛍光灯の寿命、ラピッド管でない蛍光灯の場合、点灯時の消費電力など、いくつかの要素を考えなければなりません。このような細かなことを考える上でも、正確なデータ収集は必須なのです。今までやりたくてもできなかったことができるようになった。しかも、リモート環境ですので、1つのモニターからすべての状況をつかむことができ、この効果は今後さらに大きくなっていくと考えています」(酒谷氏)。
1,500ポイントを超える設定を含めて導入は比較的短期間に進められた。変電設備の改変を含めて1年ほどの期間である。実際JoyWatcherSuiteの導入、カスタマイズ作業は4ヵ月ほどで完了し、2007年3月に試験運用、4月から本稼働となった。
これまで手作業でプロットしていた電力消費も、自動でデータ収集が行われる。電力はデマンド契約している研究所にとって、どこまで細かな監視、管理ができるのかは、直接電気料金に跳ね返って来る問題だ。それだけでなく、省エネを推進する上でも、効率的な省エネ方法の発見は研究所のエネルギーコストの削減だけでなく、今騒がれている、地球温暖化防止に向けての、何らかの提案活動にもつながるのではないだろうか。