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最適厨房の「常識&非常識」
中級編 厨房メーカーさまに聞く 1

業務用厨房の最適な「換気システム」とは?

「換気システム」は、最適厨房を実現する重要なカギ。
快適な厨房環境と光熱費の削減を実現しましょう!

菅井 裕 氏
株式会社HALTON
営業本部 営業開発部
執行役員 本部長
菅井 裕 氏

株式会社 HALTON
株式会社 HALTON

代表者
代表取締役 近藤 成
所在地
東京都港区虎ノ門4-1-28
虎ノ門タワーズオフィス棟19F
電話
03-6824-6581
事業内容
業務厨房用換気天井システムの設計、施工およびメンテナンス、厨房用高効率換気システムの取り扱い、制気口類の取り扱い
URL
https://www.halton.co.jp

01 なぜ厨房換気システムが重要なのか?

──厨房の換気設備を考えるとき、どんな流れで検討が進むのでしょうか?また、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか?

菅井

まず大きく2つの流れがあります。一つ目は、ホテル・病院など規模が大きいプロジェクトの場合。空調機械関係の設計事務所が厨房の換気設備を検討します。二つ目は、個人経営の飲食店など規模の小さいプロジェクトの場合。飲食店の設備施工会社が空調・換気まで一気通貫した検討をします。

一つ目の大きい規模のプロジェクトのときは、設計事務所に任せると安心というイメージがあるかもしれません。しかし、実は普段、事務所ビル・高層ビルなど大規模な建物を担当している設計者は、オフィス環境の空調については詳しくても厨房環境の空調についてはあまり詳しくない場合があります。

二つ目の規模の小さいプロジェクトの場合は、これまでの知識や経験・肌感覚と国交省の指針で、空調と換気の規模を決めます。日本の空調と換気の技術はかなり高いのですが、厨房の換気は特殊です。鍋から立ち上る蒸気や油脂、厨房機器表面からの輻射熱など、空調環境に影響を与える要素が複雑に絡み合っています。しかし、それらについてどのように設計するかの指針が、実は日本ではあまり決まっていません。

具体的には、1980年代に国土交通省が定めた基準として、調理したときの排ガスで人の健康に悪影響を与えない換気基準(有効換気量)が定まっているだけです。ただ、それを守って設計すれば十分かというと、法的には問題なくても「快適な厨房環境」という視点では不十分なため、引き渡し後に「厨房が暑い」「換気が不十分で湿度が高い」「換気をしすぎて空調光熱費がかかりすぎる」などの問題が生じてしまうことが多いのです。

特に電化厨房機器は、燃焼排気によるドラフト効果(上昇気流))がない分、排気量のみで油煙などを引っ張りますが、油脂の計算等に関する基準がないため厨房がベタつくなど問題が起きがちです。これらの問題を防ぐためには、設計事務所に任せきりにせず、厨房環境に詳しい専門家に相談することが大切です。最適な厨房換気の設計ができれば、本来は換気の問題で導入できないとされた厨房機器を導入出来たり、空調のランニングコスト削減も叶えられたりとメリットも大きいです。

ドラフト効果(上昇気流)

02 ZEBを実現する換気天井とキャプチャージェット

──世界的にも地球温暖化対策として脱炭素への注目が高まっています。厨房換気が貢献できることはあるのでしょうか?

菅井

建物の脱炭素を証明する方法のひとつとしてZEB(Net Zero Energy Building:快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと)があります。ZEBの検討において、厨房はオフィス利用などと比較すると不利で、厨房が入っているとZEB達成は難しいと思われていました。しかし、厨房換気に関する研究が進み、近年では弊社の換気天井とキャプチャージェット「M.A.R.V.E.L.(マーベル)」を導入いただくことでZEB Readyを達成した建物もあります。

──換気天井とキャプチャージェット「M.A.R.V.E.L.(マーベル)」について詳しく教えてください。

菅井

一般的な厨房で多く見られる「通常のフード換気」は、厨房機器の上部に箱型のフードを設けた換気設備です。機能は排気に限定されており、給気と空調は別途設備が必要です。イニシャルコストが安い反面、実はフードの端部は漏れやすい構造となっています。さらに音がうるさく、油煙が給気による強い気流で室内に拡散することで厨房内の掃除が大変だという短所があります。

これに対して、近年ご採用が増えている「換気天井システム」は、「置換換気」の原理を応用しています。温かい空気は上昇し、冷たい空気は下降するという法則を応用し、調理で生じる排気・廃熱と新鮮な冷たい空気を攪拌させずに置き換えるという、効率的な換気方法です。

置換換気の原理を応用した(換気天井システム)

一方「キャプチャージェット」は、フードの下端から室内空気(RA)を水平方向と垂直方向に吹くことで、換気を効率的に行うことができます。水平方向の噴流はフードから漏れ出ようとする調理排気をキャッチしてグリスフィルターへ誘引し、垂直方向の噴流はエアーカーテン効果によりフード容積を増加させます。この2つの機能により排気効率を高めています。

この2つは、用途が異なります。「換気天井システム」は厨房全体の排気・給気・空調により環境改善を図るもので、病院・学校給食、ホテルのメイン厨房など、大型厨房の換気に適しています。「キャプチャージェット」は、コンロ、中華レンジなどの加熱機器の局所的な排気・給気・空調を極めて効率的に行うシステムで、個店のレストランなどに向いています。

「M.A.R.V.E.L.(マーベル)」は、換気システムに追加できるオプションの名前です。特長は、赤外線センサーが機器の稼働状態を検知し、機器が稼動しているときは排気風量を多くし、稼動していないときは減らす等、換気量を自動的に制御し、最適な状態にします。このため、排気風量を約64%減少できるという試算もあります。これにより、排気ファンや空調機に要する電力の省エネにつながり、電気料金とCO2排出量も削減されます。しかもタッチパネル上で削減効果が数値として把握でき、そのデータをインターネットで本部へ送信することで、継続的な管理が可能になります。

財務的な視点で見た「M.A.R.V.E.L.」の長所は、投資した初期コストを電気料金の削減効果により確実に回収できることです。従来の換気システムを大きく進化させた「M.A.R.V.E.L.」は、今後の換気システムの主流になっていくのではないかと考えています。

M.A.R.V.E.L.(マーベル)

03 今後ますます重要になる厨房環境の改善

──人手不足の飲食業界では、人材確保の観点でも厨房環境を整えることは重要だと思います。厨房換気の観点からできることや意気込みを教えてください。

菅井

そうですね、ヨーロッパなど外国においては、シェフの社会的地位が高く、快適な厨房環境を整えることは当たり前になっています。厨房環境が悪いと働きたくないとおっしゃるシェフの方もいるくらいです(笑)。外資系のホテルでは厨房環境を整えることが設計要件にも入っており、2023年現在、新築ホテルでは50%以上で換気天井をご採用いただいております。日本は人材不足が深刻ですから、今後ますます厨房環境改善の重要性が増してくると思います。

そんな状況で、弊社HALTONは本社のあるフィンランドにR&Dを構えて、換気量の研究をしており、会社の使命は「厨房環境と働く人の環境をよくすること」そしてその「知識を広めていくこと」です。厨房で働く人の健康を考えて、近年ではPM2.5やVOC(揮発性有機化合物)を感知できる換気システム、ずっと厨房にいても時間感覚が狂わないように時間帯によって照度や色調を変えられるヒューマンセントリックライティングの照明開発と販売も進めています。

また、ダクト火災予防のために「キャプチャーレイ」というUVシステムによって油を分解し、ダクト内に油がつかないようにする機器も販売しています。時代によって、厨房換気に求められることが「安全性(人の健康に悪影響を与えない)」→「環境性」→「快適性」に変化してきていると感じています。それらの変化にも柔軟に対応し、快適で調理人が憧れる厨房を共に作ってきたいと考えています。

厨房は換気も重要ですが、厨房機器からの輻射熱を小さくすることも省エネにつながります。ガス会社さんが推進している低輻射ガス機器「涼厨」など機器のご採用と「高効率な換気システム」など複合的なアプローチから、厨房環境を良くする指針を共に作り発信していきたいですね。

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