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オピニオンリーダーが語る
厨房談義 第25回

世界コンクール優勝者が語る「世界一のおもてなし」

お客様の思いの先を読む“最高のサービス”と、
サービスの視点から見るワインのテイスティング。

メートルドセルヴィスの会 
宮崎 辰 氏/長谷川 純一 氏

「今のサービスに付加価値をつけたい」「接客業務の仕事に活かしたい」と思っている方へ向けて、2人のプロフェッショナルが“一流のサービス”について語ります。

ミシュラン東京3つ星のメートル・ドテルであり、「クープ・ジョルジュ・パティスト」サービス世界コンクール東京大会優勝者の宮崎氏は、お客様の思いの先を読むことの大切さを強調します。そして「俺の株式会社」店長兼シェフソムリエであり、第16回メートル・ド・セルヴィス杯優勝者の長谷川氏は、サービスの視点からみたワインのテイスティングについて語ります。

2人に共通するのは、“すべてはお客様のために”という思い。今自分に出来る最高のサービスとは何かを考えるうえで、極めて示唆に富んだ内容です。

Subject 1 お客様の思いの先を読むために、
お客様を“想像”し、そして“行動”する。

メートル・ドテル 宮崎 辰 氏

PROFILE

宮崎辰/1976年、東京都国分寺市生まれ。辻調理師専門学校卒業。ミシュラン1つ星レストラン等での研修を重ね、1997年に帰国。国内数々の有名レストランを経て、同年、第14回メートル・ド・セルヴィス杯優勝。2012年11月、「クープ・ジョルジュ・パティスト」サービス世界コンクール東京大会優勝。

レストランの演出家としての「メートル・ドテル」

──メートル・ドテルという仕事について教えてください。

宮崎

メートル・ドテルとは、レストランのすべてを熟知し、お客様のご要望をお聞きしたうえで、レストランの最大限の楽しみ方をご案内する演出家だと考えています。お客様から予約を受け、ご要望をお聞きし、お出迎えをし、オーダーを取り、厨房や他セクションへ指示を出す、そのすべてをメートル・ドテルが行います。常にお客様と向かい合い、お客様のご要望を深く理解し、それを100%以上のレベルで実現するのがミッションなのです。

例えばメートル・ドテルは、その日の厨房に用意されている食材をすべて把握しています。また各メニューに必要な調理時間や、それぞれのシェフの力量も理解しています。その上で、その日のお店の全体状況も考慮しながら、お客様をお待たせすることなくご要望に最大限お応えするための方策を瞬時に判断します。

私は、2012年の「クープ・ジョルジュ・パティスト」サービス世界コンクール東京大会で優勝することができました。そこで審査されるのは、テーブルセッティングからオーダーテイク、そして前菜・魚・肉・デセールなどの切り分け、味付け、取り分け、盛り付け。さらにワイン・カクテル・アイリッシュウィスキーなどの提供まで、極めて多岐にわたる技術が求められます。

準備段階では、お客様の来店目的に合わせてテーブルに花を活け、ミリ単位の精度で食器をセッティングします。ご来店後は、お客様の前ですべての動作を美しい作法に則って行い、お客様の心に響くコミュニケーションを心がけます。そのために、世界中の料理やお酒の知識を学習し、ひたすら練習を繰り返してきました。

「サービス」+「付加価値」+「ホスピタリティ」=「お客様満足」

──3つ星レストランのメートル・ドテルに求められるものとは、何なのでしょうか?

宮崎

一般的なサービスに付加価値を付けることで、真のホスピタリティを実現する、それが求められている姿だと考えています。サービスは、お客様と自分が主従関係であり、お客様にお金を払って買っていただくものです。それに対してホスピタリティは、お客様と自分が友人のように同じ目線でコミュニケーションしながら、サービスに自分なりの付加価値を付けてご満足いただくことだと思います。

例えばオレンジを使ったデセールの場合、私はオレンジをお客様の目の前でカットします。お客様と和やかに会話しながら、独特のカッティング技術をご覧いただき、同時に香りも楽しんでいただく。そして果肉が輝いて見える美しい盛り付けをすることで、1個200円ほどのオレンジが、10倍近い値段のメニューに生まれ変わるわけです。その付加価値を実現するために、私はお店が終わった深夜に数えきれないほどオレンジのカッティングを練習しました。

ホスピタリティを実現するためには、まず準備が重要です。掃除はホスピタリティの原点ですが、見えるところだけをきれいにするだけではいけません。見えないところもきれいにする。そしてお客様が着席した目線で、お店全体をチェックすることを毎日自分に課しています。テーブルセッティングも同様で、お客様の目線からミリ単位で調整します。さらに、体調・自信・余裕など自分自身の準備も完璧に行い、最高の状態でお客様をお迎えするようにしています。

お客様の状況を断定せず、予測し、そして妄想する

──宮崎さんは、お客様の思いの先を読むことの大切さを、日頃から説いておられます。

宮崎

はい、それが真のホスピタリティを実現するために極めて重要な接客術だと思います。例えばご予約のお電話をいただいた時、その電話番号が固定電話のものだったとします。このお客様は声音からしても年配のお客様ではないかと想像し、落ち着いた席をご用意しようと私は考えます。

また会話の中から、そのお客様は最終の新幹線で大阪に帰る予定であることがわかったら、パティシエ・シェフ・ソムリエなどのスタッフとも相談し、お客様の食べるスピードも見ながら、その時間に間に合うよう料理をお出しします。

またある時、コースの中盤を過ぎた頃に、ため息をつかれたお客様がいました。その時は「このお客様は満腹なのかも知れない」と想像し、次の料理の量を少なめにするご提案をしました。

お客様がここにご来店されたその日は、一生に一度の特別な日かも知れません。そのお客様のために、自分に出来ることは何だろうかと常に考え、行動します。お客様の人物像や状況を想像し、さらには妄想し、自分なりの付加価値をご提供すること自分に課しています。究極のサービスは、そんな日々の積み重ねから生まれるのではないかと思っています。

Subject 2 ワインを最大限楽しんでいただくための
“サービス視点のテイスティング”とは?

「俺の株式会社」店長兼シェフソムリエ 長谷川 純一 氏

PROFILE

長谷川純一/1981年、静岡県生まれ。2004年より「アピシウス」にてサービスの基礎を学び、2009年に「ル・シズィエム・サンス・ド・オエノン」にてメートル・ドテル、2011年には「ラ・フィネス」にてマネージャーを務める。2013年に俺の株式会社に入社。現在に至る。第7回JALUX WINE AWARD準優勝。第6回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト、第16回メートル・ド・セルヴィス杯優勝、自由が丘ワインスクール講師。

テイスティングの心得は“美点凝視”

──サービス視点から見たワインのテイスティングの心得とは何でしょうか?

長谷川

ソムリエ視点からテイスティングを行う場合には、そのワインの商品価値を見極めることが目的となります。それに対してサービス視点のテイスティングとは、お客様に最大限ワインを楽しんでいただくためにはどうしたらよいかを考え、実行することです。

ワインは、実は農産物であり、その国の文化や歴史、風土や造り手の思いが反映された、いわば一期一会の飲み物です。1本のワインの背景にある物語をご紹介し、個性を知っていただくことで、お客様の心も次第に開いていきます。そして、そのワインと出会えたことに感謝し、ご来店いただいたお客様にも感謝する。それがサービスとしてのテイスティングの大切な心得だと思っています。

もう一つ重要な心得は“美点凝視”という心の持ち方です。これは銘柄や値段からくる先入観にとらわれることなく、そのワインの長所を見つけてポジティブに表現する、という意味です。ワインの個性を別の枠組みからご紹介するリフレーミングの話法によって、お客様にワインをより深く楽しんでいただくことができます。

例えば「薄い」を「淡い」と言い換える。「酸っぱい」を「さわやか、酸味が豊か」に、「渋い」を「リッチで豊かな」に、「苦い」を「コクと奥行きがある」と表現することで、そのワインの個性がより魅力的に感じられるのではないでしょうか。

ワインは、提供するソムリエによっても味が変わると言われるのは、そうしたサービス視点に立ったテイスティング話法によるものなのです。

テイスティングの表現方法と、マリアージュの基本とは?

──ワインの個性を表現する方法を教えていただけますか。

長谷川

ワインをテイスティングし、その個性をお客様にご紹介する視点はたくさんあります。まず外観ですが、飲む前によく観察して、色合い・濃淡・粘性・輝き等を楽しんでいただきます。ワインをグラスに注いで軽く回した時、内側に雫が伝わって落ちる現象を“ワインの涙”と表現しますが、そこからワインの熟成度合いがわかります。またシャンパーニュの場合には泡の大きさや持続性に触れながら、“星を飲む”という表現を使って飲み心地を想像していただきます。こうしたコミュニケーションが一杯のワインの価値を高めることにつながります。

この他にも、香りについては、グラスを回す前の第一アロマは葡萄そのものの香りであり、回した後のブーケと呼ばれる第二アロマは時間によって解き放たれた香りであることをご紹介します。また味わいについては、アタック、バランス、余韻の長さなどをご説明し、“記憶に残る”ことが最良のワインであることに触れます。

──料理とワインのマリアージュの基本とは、どのようなものでしょうか。

長谷川

マリアージュの基本は、料理とワインがお互いに引き立てあうことです。ワインの味を構成する酸味・甘味・苦味という3つの要素を舌で感じながら、それを料理と合わせていきます。例えば酸味に特長があるワインは、カルパッチョやクリームソースによく合います。フォアグラやテリーヌには、甘口の貴腐ワインを合わせます。

その他に“郷土”を合わせることもあります。シャンパーニュに白カビのチーズや磯の香り高い牡蠣のグラタンが合うのは、郷土が同じだからです。また“色”の場合は、魚料理と白ワイン、肉料理と赤ワインのマリアージュが有名ですが、その視点から赤身魚と赤ワインを、鶏肉と白ワインを合わせるのもお勧めです。

さらに“格”を合わせることも大切な視点です。「ジョエル・ロブション」で供される高価なワインを「俺のフレンチ」でお出しするのは、バランスが良いマリアージュとは言えません。

以上お話したように、テイスティングとマリアージュに共通する大切なポイントは、コミュニケーションによってお客様に目の前のワインを最大限楽しんでいただく、という姿勢です。それが最高のサービスにつながっていくのだと考えています。

※この記事は、2016年12月1日に「厨BO!SHIODOME」で開催された「サービスセミナー」をもとに、編集部が作成しました。

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